その14
さて。
花盛りの家の居候、赤肌・あごひげの不破友介が、マジもんの悪魔であることは、これまでにも何度か書いて来たとおりであるが、読者諸姉諸兄の中にはいまだに、
「ちょっとなに言ってるか分かんない」とか、
「あーたーまー、大丈夫ですか?」とか、
「いまどき悪魔もねえだろう、このペチャパイ」とか、
そう想われている方々も相当数おられるとは想うのだが、その不信の原因はきっと、彼がそれっぽい芸当を見せてくれていないことに起因するのではないかと、この愚鈍な作者などは愚考するわけである。
まあ、もちろん、彼の見た目がサキュバス的エッチな美悪魔、あるいは、日本人に見付かった結果の女体化~美少女的ルックスであったとしたならば、そんな悪魔っぽい芸当なんてしなくても、読者の皆さまは満足~納得して頂けるのかも知れないが、そんなんでよければ他に適任者がいるし(注1)、こう見えても不破さん、悪魔としてのプライドは結構高い方なので、
「なぜ私が、バカな女の姿なぞ」
とちょっと間違えれば炎上しちゃいそうな発言を普通にしちゃったりもするので、ここはやっぱり落ち着いて、古式ゆかしき悪魔っぽい悪魔っぽさを演出して頂くのが、まあ無難と言うか、作者的には安心するわけであります。
*
「『悪魔っぽい悪魔っぽさ』?」
「うん。大昔の映画に出て来るような――」
「硫黄の雨で街を灼いたり、糸に集った者どもをブチンと奈落に突き落としたり?」
「うーん? もっとマイルドな方がいいし、それってどっちも悪魔の仕業じゃなかったよね?」
「それでは、敬虔な神父に人妻への邪な想いを抱かせましょうか?」
「それはそれで面白そうだけど、地味だし時間かかるんじゃない?」
「大体、三年ほど」
「長いな。他には?」
「うーん? それなら、政治家を堕落させるのはどうです?」
「堕落って?」
「まあ、ちょっとした賄賂や裏金なら貰ってよいと想わせたり、国民の生活よりも自党存続が第一だと考えさせたり、自分の懐が潤うのなら、国家の存亡を賭けた戦争にも平気で突――」
「あ、ごめん、不破さん」
「はい?」
「それ、悪魔いらない」
*
と言ったところで。
このあと不破さんには最近のマンガやアニメや映画を見せて『悪魔っぽい悪魔っぽさ』を勉強してもらい、そのおかげもあってかいま彼は、
『ふぁっはっはっはっは! 下等で愚かな人間どもめぇえ!!』
とドルビーアトモス4DXもかくやという立体音響・特殊効果で叫んでは、
『どうだっ! 私の巨大さにひれ伏すがいい!!』
と天にも届かんばかりに身体を巨大化させると(幻覚)、
『ふあっは、はっはっはあ! ふあっは、はっはぁはあ!』
と結構ノリノリな感じで、あごひげを更に黒く長くし、あの日焼けみたいな赤い肌も、本来の彼のような、赤と黒と炎が入り混じったものに変えたりしてから、
『恐怖で声も出ないようだなぁ!』
と両手いっぱい炎をためることにもなるし、
「え? え? なに? なに? なにがどうしたの? 不破さん?!」
と驚くまひろ君の声も無視、そのまま、彼女に向かってその炎の球(これも幻覚ね)を投げ付けることになるわけですが……って、え? なに? なにか言いました?
『このシチュエーションは一体なんなのか?』?
あー、はいはい。それは前回、まひろ君がマンションの29階から落ちて――って、たしかに色々説明すっ飛ばしているな。なので、時間はすこし遡ります。
*
「うっわぁああああああああ!!!」
と彼女・山岸まひろの身体は宙に浮き、そのまま29階の高さから落下、しかし、そのコンマ数秒後、突然、グッォオオオォ! という音とともに光る『壁』が出現、ォォオオゥオ、ウォオオオォウォン。と彼女を飲み込み、それを見ていたいつもの赤毛は、
「ファンタスティック!!!」と叫んで興奮。いつものレンチでビジジジジ。「なるほど?」と彼女の飛ばされた座標を把握すると、「逃げ場所は彼女自ら理解してるってことかな?」
と続けて移動ポータルを作成、自身もそこに飛び込み追い掛けた――というところまでは前回書きましたが、皆さんすでにお気づきのとおり、このあと彼らが行ったのは、いつもの花盛りの家、そのリビングで、不破さんひとり、お煎餅をかじりながらテレビを見ているところに先ずはミスターが、
ぽっ。
きゅっ。
ひゅんっ。
と天井にポータル開いて現われて、
「おや? ミスターさま」
「やあ、やっぱりここか、まひろくんは?」
「は? 貴方とご一緒なのでは?」
「いや、それが能力を試しているところで――ヤスコちゃんは?」
「富士夫さまとご一緒にまひろさまのマンションへ」
「なるほど、絵に描いたようなニアミスだな」
「あまりに上手く行きすぎて、私も少々驚いておりますが――如何ですかな? まひろさまの能力は」
「流石はあのおばあさんの血だね。強力も強力、今回の発端になっちゃったのもうなずけるよ」
「なるほど」
「ただ、いまも遅れているし、きっとあちこち振り回されているんだろうけど、結局自分で自分が何をしているのか分かっていないっぽいから、先ずは自覚症状を持たせるところからだと想うんだよ。マンションから突き落とすくらいじゃ全然効いてないみたいだしね」
「マンションから突き落とした?」
「ああ、安心して。すぐに『壁』が出て来て彼女は無事……なんだけど……、そうだなあ、例えばこの家、なにか危険なものはないかい?」
「危険?」
「まあ、実際危険じゃなくてもいいんだけど、彼女が怖がるというか、地球人類が本能的に怖れを抱くような――あっ!」
「は?」
みたいな感じで。
「し、しかし私、人類を騙したり唆したり、昼間の一番忙しい時間帯にオフィス街のネット回線を使えなくする等の、どちらかと言うと頭脳派な悪魔でして、そんな見た目で脅すだなんて下級悪魔の真似など――」
と嫌がる不破さんに対してミスター、
「いやいや、不破さんほどの上級悪魔なら、その本来の姿を見せるだけでも――」とか、
「子供の頃から親しかったおじさんが悪魔だと知った時のまひろ君の顔を想像すると――」とか、
「実際僕も見てみたいんだよなあ、きっともっとかっこいいんだろうなあ、悪魔姿の不破さん」とか、
まあ、そんな悪魔並みの弁舌で彼を説得~籠絡。すると不破さんも不破さんで、
ググッ。
ギュウッ。
カーーーーーーーーーーーーペッ!
と、『壁』から吐き出され、遅れてこちらに到着したまひろ君に向かって突然、
『ふぁっはっはっはっは! 下等で愚かな人間どもめぇえ!!』
と演出過多に言っちゃったりなんかして、冒頭のシチュエーションへと繋がるわけですね、はい。
(続く)
(注1)樫山泰士製作の『カトリーヌ・ド・猪熊のバラの時代』を参照のこと。あちらにも数人悪魔が出て来るが、そちらのひとりが、こう、なんか、ペネロペ・クルスばりの、ボッ、キュッ、ボンッ的エロエロお姉さまなんですよね、これが。




