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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第十三話「ワイルド・ブルー・ヨンダー」
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その6


「あのー、そろそろどこかに座って休みませんか?」


 と、言うことで。


 前回更新分から場面は変わり、ここは石神井公園北側出口、ちょうど郵便局が目の前にあるところで、問題のお腹ぽっこりエイリアンにまひろ君が、一旦歩くのを止めないかと提案したところになります。


「あなたはたくさん食べてたようですけど、僕まだゆで卵一個だけですからね、食べたの」


 前回更新分でも書いた通り、彼らはいま、花盛りの家を出てから一時間ほど、この周辺で散歩を続けているわけだけれども、その間ミスターは一度も休むことなく、ひとり早足で喋りっぱなし。まひろの方も一応律儀にそれについて歩いていたのだが、流石に限界が来たのと、はやく不破さん特製サンドイッチを食べたい気持ちなんかもあって、


「公園出たら座るとこないですよ、戻りましょうよ」


 と彼に伝えることになるのだが、この言葉にミスターは、


「うーん? そうだねえ……」と道路の脇で左右をキョロキョロ、車の往来を見ているだけで、「ちょっとゴメン、まひろくん、こっちに来てもらえる?」


 と、そもそもあんまり聞いていないご様子。で、まあ、呼ばれたまひろはまひろで育ちのよい素直さんなので、


「なんですか? 一体」と不満顔のまま彼のもとへと行く。


 左を見れば横断歩道と信号機、右を見れば真っ直ぐな道路がビューンっと延びていて、ミスターの手にはいつもの奇妙なラチェットレンチが握られている。


「『修行の時間だ』って言ったの覚えてるかい?」


「え? ええ、まあ結局、なんの話か分かっていませんけど」


「うん?」とミスター。「そうか、そうだよね」と言ってレンチを信号機に向ける。「実際の修行に入る前に、概要だけでも話しておくか」


 ビビビビビ、ビビッ。


 レンチが鳴り、今度はそれを信号機と反対方向に向けるミスター。クルクル回して、


 ジージ、ジジジジジ、ジジッ。


「なにやってんですか? それ?」と不審がるまひろだが、


「君のおばあさんは、大変な魔力の持ち主だったんだ――5」と突然、そんなことを言い出すミスター。「いわゆる魔女みたいなもんだな」


「……は?」


「不破さんと出会った当初は普通のひとだったそうだから、彼に会ったことで力に気付いたんだろうね。ほら彼、悪魔だから――4」


「……え?」


「で、残念ながらと言うか幸いにもと言うか、その力はXX染色体の個体により顕著に発現するらしく、君のお父さんやお兄さん達には、あまりその能力発現は見られない――3」


「え? ちょ、ごめんなさい。さっきから、一体なんの話を――」


「そうして最近、まあ、いろんな偶然が、それこそヤスコちゃんとの出会いなんかがあったりして、おばあさんから受け継いだ能力を解放――って、ごめん。その保冷バッグは僕が持っといた方がいいな――2」


 とここでミスター、戸惑うまひろの手から保冷バッグ(牛ステーキサンドイッチ入り)を奪い取ると、


「問題は」と言って続けた。「問題は、君の能力が宇宙全体に影響を及ぼす、及ぼしたくらいに強力だってことと、これもまあ色々あったんだろうけど、その記憶の一部が、僕が君から奪う前、それより前に、君の中から消えていたことなんだよ」


「……………………は?」


 とここで突然、ずっと赤だった信号機が急に青に変わり、道の向こうからは、意識を朦朧と“させられた”トラックドライバーが、なぜかそのアクセルを大きく踏み込んでいた。強く。しっかりと。


「“大いなる力には大いなる責任が伴なう”」ミスターはほほ笑むと、「が、その前に、まずはその使い方を覚えないとね」


 ドンッ!


 と突然彼女を、道路の側へ、速度を増したトラックの前へと突き飛ばした。そうして、


「そうしてそれが、『修行』ってことさ――ゼロ!」


 バンッ!!!


 キキキキキーーーーーーーーッ!!!


 ナニカとナニカのぶつかり合う音が聞こえ、巨大なブレーキ音が周囲の空間にひびき渡った。そうして――?


     *


 そう。そうして、扉を開き、その少年の顔を見たとき祝部守希は、つい、反射的に、「あら、**くん」と声に出してしまいそうになった。


 がしかし、それでも彼女はその一瞬後、とてつもなく太い修正テープと手書き風フォントにそれらを上書きされることにもなり、結果、


「あら、どちらさま?」とその少年に訊くことになった。「ひかりの学校の方?」


「え?」と少年――清水朱央は一瞬戸惑ったが、昨日・一昨日の自分を想い出すと、「あ、いえ、学校は違うのですが」と言葉を選んでこう答えた。「今度、ひかりさんの学校と共同で、ひとつの課題をやることになりまして」


「ふーん?」守希は応えた。それでも妙な既視感は覚えつつ、「ふたりだけ? それとも――」


「あ、もちろん」朱央も答えた。「他にもメンバーはいますが」とまるで初めて会ったかのような彼女の表情におびえつつ、「僕とひかりさんがリーダー役に選ばれまして、先ずは二人で企画書の叩き台を作ることに――」


「ふーん?」ふたたび守希は応えた。「あの子なら二階ですけれど」それでも小首を傾げつつ、「失礼ですけど、前にどこかでお会いしたかしら?」


「え? あ、いえ」ふたたび朱央も答えた。「初めてだと想います」すこし目の辺りが熱くなった。「ええ、きっと、たぶん」


「ふーん?」みたび彼女は言うと、「ま、そうよね」と続け、「ひかりー、お客さまよー、清水さんって男の方―」


 昨夜、あの雨のなかで清水朱央は、突如現れた『窓』の影響で、失くしていた記憶――深山千島に消された、祝部ひかりと彼女に関する諸々の記憶――を取り戻すことが出来たのだが、まさか自分だけが相手を憶えていて、相手は自分のことなどすっかり忘れているという状況が、ここまでつらいことだとは想ってもいなかった。ただ普通に、彼女のことを、「おばさん」と呼べたらどれほど気楽であろうかと。


「はーい。いま行くー」ひかりが応えた。二階から、「リビングかどこかで待ってて貰えるか訊いてー」


 守希がこちらを向いた。「ごめんなさいね、困った娘で」とでも言っているような、いつもと変わらぬ微笑みだった。彼は無言で、出来るだけの微笑で、それに応えた。守希がふたたび、二階に向かって叫んだ。


「それならリビングで待っててもらうわねー。あまりお客さまをお待たせしてはダメよー」


 この時、もちろんひかりも、消された記憶を取り戻していたので、朱央を家に呼ぶことで、それがきっかけで、父の優太にその事がバレてしまうことを懸念してはいたのだが、それでも彼女は、清水朱央に、世界で唯一同じ記憶を共有している彼に、相談したいことがあり、彼を家に呼んだのである。彼女の実の両親のことで。



(続く)

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