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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第十三話「ワイルド・ブルー・ヨンダー」
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その5


 リビングに座る彼女を見たとき、山岸富士夫は奇妙な既視感を覚えた。なぜなら彼女がこの家の、この花盛りの家の一種独特な雰囲気に、あまりに自然に溶け込んでいたからである。


 そんな女性はほとんどいなかった。


 彼の母親はそもそもあまりここに寄り付かなかったし、亡くなった祖母の友人たちも、楽しく遊びに来るには来ていたが、なんだかどこか居心地の悪い――と言うほどでもないが、とても“溶け込む”とは言い難かった。彼の妻や娘も似たような感じで、あとは彼の妹のまひろくらいだが、彼女は、子どもの頃からここでよく寝泊まりしていたし、一時期ほとんどここが実家のようになってもいたので、例外中も例外の――、


「そうか、まひろか」と山岸富士夫は突然合点し、それから直ぐに首を振った。「いやいや、あまりに似ていない」


 兄バカ的贔屓目を抜きにしても、まひろはとても整った顔と見た目をしており、今でこそ男のような格好をしてはいるが――どの兄よりもイケメンとはどういうことだ?――むかしのように女性らしい格好のひとつでもすれば、こちらの心配が追い付かないほどに男どもの興味と好意を引くことだろう。が、しかし、こちらの女性と言えば――、


 いや、別に不器量というわけではないが、なんだか背の高い少年のような体型をしているし、目鼻立ちも整ってはいるが、それこそむしろ、こちらの女性のほうが男装が似合うのでは? という印象を自分に持たせるし、ああ、そう、それに何故だか全体的に、アニメのピーターパンが無理やりウェンディの姿を真似しているような、そんな風に、富士夫には見えたのである。


「樫山……ヤスコさん?」富士夫は訊いた。彼女の前に座りながら、「祖母と? はどういったお知り合いで?」


 今日、彼がここに寄ったのは、昨日に引き続き、妹のまひろの様子を、ずっとソファで寝込んでいる彼女の様子を確かめに来たからなのだが、その問題のソファにはいま、別の女性がちょこんと座っている。


「あ、いえ、それが」と女性は答えようとし、


「樫山先生のお母さまが、咲子さまの古いお知り合いなのですよ」とこの家の居候・不破友介が代わりに応えた。「それが今回、咲子さまのことを知り、わざわざご弔問に来られたのだそうです」


 が、もちろん、これは半分本当で半分ウソであった。


 ヤスコの実母・柳瀬ヒトミが、この家の亡くなった女主人や不破と知り合いだったことは、以前お見せした写真、彼らが一緒に写っている写真と、その写真の裏に書かれていたここの住所からほぼほぼ真実であるし、その写真と住所が、いまのヤスコをこの花盛りの家へ導いたのも、これまた以前お見せした通りである。であるが、咲子への弔意は前回来たとき済ませているし線香も上げている。つまり、今日彼女がここへ来たのは、別の理由あってのことだが――、


「富士夫さん?」ここで彼女は訊いた。「ヤマギシ? ふじおさん?」それからすこし考えて、「す、すみません」と床に置いたカバンの中を、そこに入れておいたA4判のノートを盗み見た。「“ヤマギシまひろ”さんのお兄さまの、“ヤマギシふじお”さん?」


 ここに彼女が来た理由。それは、不破にまひろの居場所を聞くためであった。


 と言うのも、彼女の父が遺したリスト、祝部優太に渡すべきかで悩んでいるあのリストの中には、彼女・まひろの名もあり、それがどうしてもヤスコには引っかかっていたからであるが――、


「そうですが」とここで富士夫。「私の名前がなにか?」


 そのリストには、まひろ同様、富士夫の名前も載っていたのである。


「お兄さま」ヤスコが訊いた。富士夫の問いには答えずに、「まひろさんは、いまどこに?」


 そうして――?


     *


 そう。そうして、その頃まひろは、花盛りの家を出、石神井川を渡り、石神井公園の中をちょこちょこちょこと歩き回った後、国道8号線の方へと向かっているところであった。何故なら、この一時間ほど前、件の悪魔・不破友介が、


「ところでまひろさま、ミスターさま」と突然、なにかに気付いたかのように、「そろそろ腹ごなしのお散歩などされては如何ですか?」と言い出したからである。


 であるのだが、不破さんお手製超豪華ブレックファストを食べられるだけ食べた赤毛はさておき――こいつはお腹パンパンだった――、まひろ君の方は、シャワーから出て来てジャージに着替え、ようやく塩味ゆで卵の殻を剥いたところであったので、


「え? でも僕、まだひと口も――」と、もちろん断ろうとした。が、しかし、それもすぐさま、


「たしかにそうだね、そろそろ出掛けようか」と間髪入れずに赤毛は言うし、


「さあさあ、まひろ様の分はお弁当にしておきましたから」と不破さんは不破さんで、こちらもいつ準備したのやら、柔らかジューシービーフステーキサンド(お野菜たっぷり)が入ったランチボックスをまひろに見せる。「食べる直前、このわさびマヨネーズをかけるのがコツですぞ(注1)」と。そのため、


 ごくり。


 と流石にまひろも、このお肉の誘惑には抗えなかったようで、


「行ってらっしゃいませ」


 と件のサンドイッチ以下、先述のデザートなんかも一緒に保冷バッグに詰めて貰って、街へと下りて行ったのであった。


「やれやれ」と不破さんのあせった顔にも気付かずに、「まさか突然来られるとは――」


     *


 さて。


 とここで一応の補足をしておくと、いま不破さんが言った「まさか突然来られるとは」とは、もちろん樫山ヤスコのことを指していたワケだが、どうして彼が、彼女の来訪に気付けたかと言うと、この花盛りの家の周囲には、同心円状に、何層かに分かれた軽めの『結界』が張られているからである。


 そう。なので例えばこの結界は、この家を探そうとやって来た人の関心を別のところに向かわせ興味を無くさせたり、光の屈折を利用してこの家や丘全体をまるで別の場所であるかのように来訪者に見せたり、また例えば、もっと単純・強力に、相手の身体をポンッと1kmほど吹き飛ばすことが可能な代物であって、つまり前回第十二話で、夢で見た景色をもとに、この丘を探しに来た佐倉八千代が、違和感を感じながらも結局この場所を見付けられなかったのも、この中の『光の屈折を~』に騙されたからであって――って? なに? なにか言いました?


『それでは何故、ヤスコ先生は簡単にここまで入って来られたのか?』?


 うん。それは、このパートの冒頭で富士夫さんが彼女に感じた印象と強く繋がって来るのだけれど、そこは紙数やネタバレの関係もあるのでザクッと簡単に答えると、


『彼女は以前、この家のメンバーとして認められたことがあるから』


 と言うことになります。まひろ君や富士夫さんと同じレベルでね。だから彼女は――って、いやいや、そうか。ネタバレ禁止だったし、そろそろミスターとまひろ君のシーンに戻らないといけないんだった。



(続く)

(注1)

 正直本編とはまったく関係ないのだが、作者のお腹も空いて来たので、今回不破さんが作ったビーフステーキサンドイッチの簡単なレシピをここに残しておく。もし気になる方がおられれば、試してみて頂ければ幸いである。


【用意するもの】

 フランスパン(短く太いタイプ)×2本

 牛ステーキ肉(食べやすい厚さ)×180g

 人参×1/4本

 大根×1/8本

 レタス×適量

 塩×適量

 胡椒×適量

 ステーキソース×適量

 醤油×適量

 お酢×適量

 ワサビ(チューブでOK)×5g

 マヨネーズ×30g

 レモン汁×適量


【作り方】

 ①人参と大根を千切りにして塩とお酢で味を付けます。

 ②ワサビとマヨネーズとレモン汁を和えてわさびマヨネーズを作ります。

 ③お肉に塩と胡椒を振り下味を付けてしばらく寝かせます。

 ④フランスパンに切れ込みを入れておきます。

 ⑤③のステーキ肉をフライパンで焼きます。焼き加減はお好みですが、私はよく焼くのをおススメします。

 ⑥お肉が焼けたら食べやすいサイズに切り、ステーキソースを適量かけます。

 ⑦④のフランスパンを軽めに焼きます。

 ⑧⑦のフランスパンの切れ込み部分に、②のわさびマヨネーズをまんべんなく塗っていきます。

 ⑨あとは、ちぎったレタス、⑥のステーキ肉、①の人参&大根、ふたたびレタス、の順にはさんで行って完成です。

 ⑩残ったわさびマヨネーズは別に取っておいて、食べる直前にお好みでかけるとよりベターです。

 ⑪あー、お腹すいた。

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