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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第十三話「ワイルド・ブルー・ヨンダー」
224/250

その4


 さて。


 タイムトラベラーの友人を持つことの面倒は色々とあるが――盛大な人生のネタバレを最初に喰らうとか、取って置きのプリンを遡った時間の先で勝手に食べられるとか――、その中でも筆者が一番面倒を感じるのは、『いま目の前にいるこいつは、一体どの時点のこいつなんだ?』という点である。


 もちろん、先月頼んだ牛乳をいきなり今朝持って来たり、五月の私の誕生日を雪の降る日に突然祝い出したり、そのロウソクの数を想いっ切り間違えた上で、「ご、ごめん、目尻のシワとお肌のくすみ具合からてっきり……」とこちらのこころをグッサグサとえぐって来たり、かと想えば、久々出来た恋人といちゃこらしようとしているところに、突然上から落ちて来て、「あ、こら、恋人なんてまだ早い!」と二人の間に割って入って、「ついこの間まで九才だったろ!」とかなんとか言いながら、色々興醒めさせたりすることもあって、ほんと、何度あの空っぽ頭をすっ叩いてやろうと想ったか分からないが、だが、まあ、それでも、このレベルのことであれば、「うん、まあ、ただただデリカシーに欠けたダメ人間なのね」と我慢と忍耐のレベルでスルーすることも可能は可能なのだが、それよりなにより問題は、実務的な問題は、いくらこっちが、彼のタイムラインを把握しようと、必死にあれこれしたとしても、その全貌を把握し切れないというところであり、これは、我々物書きにとっては大大大大大問題である。


 そう。それはつまり、前回更新分の最後で、八千代ちゃんの前に落っこちて来たこのバカ野郎は、そのちょっと前に花盛りの家に落っこちて来たあのバカ野郎や、その更に前、リンゴのような女子高生を巻き込んだり、死んだと想われていたある能力者に会いに行ったり、更に更にはいま現在、冥界? 霊界? ハドルツ? みたいな所に小さな女の子連れで行っているあれらバカ野郎と同じバカ野郎なワケだけれど、彼が一体どういう順番でこれらのシーンに登場しているのか? をノートに整理、お話を読んでいる人にもその辺がシンプル且つ分かりやすく伝わるように物語を進めたい、描写を気を付けたいと注意を払ってみたところで、それでも、あまりにも、あまりにもこのバカ野郎の周囲の時空がこんにゃらがりにこんにゃらがっていることや、そのため彼をひっ捕まえて話を聞いても、


「だから、先ずは不破さんのところへ行って、それからまた司祭さまのところに行ったんだよ。そうそう。あの女の子も連れてね。え? そう。たしか雨も降って……いなかったな……あれ? 雨が降っていなかったってことは、あれはまた別の時間ってことか? あー、そう言われれば、司祭さまも何だか僕に初めて会うような顔をし……いやいや、でもでも、それはいちど記憶を消されていたからであっ……あれ? 時計が壊れたのが木曜日だろ? で、世界がひっくり返ったのは第二水曜日だった。で、だから第二水曜日は動いちゃダメってジョンに言って、それから一緒に『戦争と平和』を読んだのが第三土曜日で、その前の月曜日に戻ってあちらのネコと釣りに行っ…………あっれえ? ごめん。樫山さん。どれがどの時間軸の僕か分かるかい?」


 と、まあ、話が整理されるどころか、いよいよいよいよ“こんにゃらがり”に拍車が掛かるだけであり、果たして現在、この地球というか練馬区に何人の彼がいて、なにを、どの順番で行なっているのかは、整理しようとしてもし切れない状態であり、であるからして毎回毎回、私の小さな頭はパ―――――――――――ンッと張り裂けそうになるというか実際小さく破裂し続けているわけで、そんな時は仕方なく、


「あのー、すみません」と電話相談したりもするワケです。「あいつのタイムライン、どうやって整理してます?」


 と、私よりもずっと彼との付き合いが長く親密なヤスコ先生に、


「ってか、よく付き合ってられますね、あのトンチキチーと」と。


 すると、流石と言うか何と言うか、あちらはあちらで慣れたもので、


『あのね、泰士さん』そうやさしく答えてくれるワケです。『あのパッパラパーの行動を整理・把握しようなんて考えちゃダメ』と。『あくまで「ああいう自然現象なんだなあ」くらいの気持ちで、薄目を開けて受け流しつつ受け止めるくらいの気持ちでなくっちゃあ』


 と言うのも、あのトッピンパラリの風太郎は、ただでさえ複雑なタイムラインを形成している上に、度重なる時空間移動で当人の記憶もすっかり混乱、仮に一部のタイムラインを整理し記録したとしても、また別の事件に彼が巻き込まれたり時間を遡ったりすれば、整理したはずのタイムラインに彼本人が介入、『ドラえもんだらけ』的カオスを引き起こすことも少なくないわけで、


『どれがどのチッチキチーか分からなくなって、頭パ――――――ンッてなるのがオチよ』


「はあ」


『そりゃまあ、頭の訓練にはなるかも知れないけどね、適当なところで切り上げないと』


「でも、それだと小説としての整合性が――」


『そもそも整合性が取れていないもの、小説のために整合性取るって、そっちの方が整合性取れてなくない?』


「う……ん?」


『それよりはもっと、整合性取れそうな部分に脳のリソースは割いた方がいいと想うわよ』


「ですかね?」


『そうよ。ただでさえこんにゃらがりにこんにゃらがっているのに、いま、このお話』


「はあ……ほんとすみません」


『まあいいけどね。こんな会話出来るの、同じ樫山の私くらいしかいないでしょうし』


「はあ、それはほんと助かりますが――あ、そう言えば、先生はいま何を?」


『わたし?』


「ええ、なんか外出中とかですか? 息が切れてますし、まわりの音もなんか……」


『ああ、例の花盛りのお宅に向かおうとしているところよ』


「え……?」


『ほら、例のリスト。結局、祝部さんには少し見せただけで、データ自体はすこし待ってもらっているのよね』


「それはまたどうして?」


『“ヤマギシマヒロ”さん。この人の名前もリストにあったでしょ? で、何故かそこが微妙に引っかかっているのよね。だから、いちど会えないかな? って想って』



(続く)

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