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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第十二話「勇気とプライド、それに恋する乙女の観察眼」
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その19


 さて。


 と言ったところで。


 祝部ひかりの記憶がもどり、清水朱央と晴れて再会。山岸まひろの目も覚めて、何故かこちらも赤毛エイリアンと再会。山岸富士夫は石橋伊礼と合流しつつ、木花エマ・佐倉八千代と再会。小紫かおるの死を受けた祝部優太は、積極的に樫山ヤスコに協力を求めるようになり、ひとり街を彷徨うマリサ・コスタには新たな問題が……と、まあ大体、今回語るべきことは語り切れたと想うので、前回更新分で、このまま「次回に続く」にしてもよかったのだが、それでも三点ほど、語り漏れていたことに気付いたので、忘れる前に、ここでまとめて語っておきたいと想う。そう。先ずは、山岸富士夫と石橋伊礼の会話から、


     *


「天台烏山?」伊礼は訊き返した。彼には似合わぬ敵意ある口調で、「あんな男とお付き合いを?」


 ここは彼の行政書士事務所。訊き返した相手は、もちろん山岸富士夫である。彼は答えた。


「まだ始まってもないですがね」といくぶん困った表情で、「亡くなった父が彼と付き合いがあったようで、それを引き継ぐかどうか考えていると言ったところですね」


 これまでにも何度か書いて来たとおり、天台烏山あるいは天台烏薬なる人物は、暴力集団とも付き合いのある、この地の名士、不動産王、高利貸し、等々などといった人物で、庶民派行政書士である伊礼の事務所には、彼あるいは彼の関係者に泣かされた、被害を受けたという相談者が来ることもよくあった。そのため、


「なるほど」と言って伊礼は姿勢を正すと、「あまり、いいうわさは聞きませんね」とだけ言って口を閉ざした。すると富士夫も、


「うん」と続けて背筋を伸ばし、「それは私も存じております」と笑って窓の方を見た。「それでも仕事は仕事ですので――」


 そうしてしばらく沈黙は続き、この間、様子の変わったイケオジ二人に、「どうしたものか?」と木花エマと佐倉八千代は顔を見合わせていたのだが、


「あのー」とエマが、恐るおそる二人に声を掛けようとしたところで、


「あ、いや、これは失礼しました、石橋先生」と富士夫が、逸らしていた顔を伊礼の方へ戻して言い、そうして、「君たちも悪かったね」と今度はエマと八千代に向かって言った。不器用な笑顔を作りながら、「なんだか、変な空気にしてしまって」と。


 正直、エマや八千代はまだまだ若く、天台烏山の件についてはよく分かっていなかったが、それでも、伊礼がここまで押し黙るところも見たことがなく、とても不安になっていたのである。富士夫は続けた。


「うん。いや、それでは」と、わざとらしく時計を見、「どうやら長居し過ぎたようですね」と言って立ち上がり、「今日はこの辺で退散させて頂きます」と。


 そうして彼は帰って行った。伊礼も一応、社交辞令的な言葉をいくつか交わし、出口まで見送ったのだが、これが先ほど私が、『語り漏れていた』としたひとつ目の事柄である。


 そう。つまりこの日富士夫は、彼の妹・まひろが、伊礼に何か相談事をしているらしいと聞き、その内容を確かめに来たわけだが、結局その話は――色々モノをぶん投げる美大生に邪魔されたりして――聞けず、更にこの時の会話がきっかけで、伊礼は富士夫を厳しい目で見るようになるし、富士夫も伊礼に距離を取りやすくなってしまった、と言うことであった。


 と言ったところで。


 次は『語り漏れていた』ことのふたつ目、高嶺ゆき子ちゃんのその後についてであるが――え?「“高嶺ゆき子”とは何者だ?」


 あ、あー、そうか。名前はまだ出していないんでしたね。えーっと? ほら、あの子ですよ、あの、朱央くんにひかりちゃんを追いかけるよう叱ったあの子、あの勇気ある『リンゴのような女の子』、あの子が高嶺ゆき子ちゃんです。


     *


 さて。


 と言ったところで。


 時間と空間はさかのぼる。とは言ってもほんの少しだけだけど。


 要は、祝部ひかりと清水朱央が記憶を取り戻したあの時間、彼と彼女が、雨のなか、傘の下、境界線の上、手をつなぎ合い気持ちを通い合わせ、そうして、そんな二人の上にひかり輝く『窓』が現われたあの時間と空間――からすこし離れたどこかのビル、その屋上、例の赤毛丸顔エイリアンが、


「流石は司祭さま」と嬉しそうに呟いたあの場所へと。「これで記憶を想い出すことが出来ますね」


 そう。実はこの時、彼はひとりではなかったのである。その問題の高嶺ゆき子ちゃんもそこにいたのである。目を丸くし、口をぽかんと開け、地べた――とは言っても、ミスターが作った『タイムバブル』の中だから汚れたりはしないけど――にペタンと座り込んで。彼女はパニクっていた。


 というのも彼女は、この数時間前――とは言っても、彼女の主観的時間では十数分前のことだけど――ずっと片想い中だった男の子の恋を、


「清水くん」と精一杯の虚勢を張って、「彼女、泣いてたわよ?」と手助けしたばかりだったのだけれど、「さっさと追い掛けてあげなさい」


 息を弾ませ走り去る彼の背中を見詰めながら彼女は、奥華子さんの名曲『変わらないもの』を脳内BGMに、思春期の女子高生らしく大粒のなみだのひとつでも流してやろうかと想ったのもつかの間、


「いっやあ、お見事だねえ、お嬢ちゃん」と、突然ヘンな外国人エイリアンに声を掛けられたからである。彼は言った――この時間帯での一番の問題はね、


「この時間帯での一番の問題はね、ここで司祭さまに姪っ子ちゃんをどうやって追いかけさせるかだったんだよ」と妙に上手な日本語で、


「一番確実なのは、司祭さまの記憶を先に戻しておくことだったんだけど、でも、ほら、僕と会ってもピンと来なかったしさ、彼。なのでいろいろ危険なソニックも使ってみたんだけど――」となんだかよくワケの分からないことを、


「でも、いや、まさか、自身の恋ごころというか生殖機会を削ってまでも相手のことを優先する地球サル目がいるなんて、いやいやいやいや、しかもこんなに若いメスなのに、いやはやいやはや、地球人もまだまだ捨てたもんじゃあないね」とかなりセクハラというか、地球人類全体を悪気なく軽めにディスりながら。


 で、しかもこのエイリアン、「は?」と呆気に取られて言葉もないゆき子ちゃんをそのまま、


「いや、ほんと、感動し……うん?」と言葉を止めてジイッと見ると、「ちょっとごめんね」


 と言って、ビジジジジジジジ。どこから取り出したのやら、これまた奇妙なレンチで彼女をスキャン、


「うん。興味深いし丁度いい」と結果を見ながらこう言った。「多分に君の愛? 恋? 勇気とプライド? みたいなものが司祭さまだけでなく、時空と物語すら動かしてしまったらしい」と。そうして彼女の手を取りながら、「よし。一緒に来てくれ」


 ポッ。

 キュン。

 ヒュ。


 と、この時間のこの屋上まで彼女と一緒にジャンプして来たのであった。しかも、つい先ほど彼女が失恋してしまった男の子と、その恋人らしき女の子の仲睦まじい姿を見せられるために。


「清水くん……」と彼女は想い、「よかった、仲直りしたのね……」と複雑な想いを抱えた彼女は、今度はこちらも名曲、同じ奥華子さんの『ガーネット』を口ずさみ大粒のなみだを流そうとしたのだが、


「あ、そうそう、ところでさ」と能天気な赤毛エイリアンにそれも邪魔されることになる。「きみ、名前は? ずっと“きみ”って言うのも面倒だし、君の勇気とプライドに敬意を表して、是非ほんとうの名前で呼ばせてもらいたい――これからも色々頼むだろうしね」


「は?」


「ほらほらいいだろ? きみの名は?」


「あ……、はあ……、ゆき子です。高嶺ゆき子」


「“ゆき子”ちゃんか、いいね、いい名前だ。それではゆき子ちゃん」


「はあ」


「突然で悪いんだが、司祭さま――君にとっては同級生の清水朱央くんだね――の影のボディガードを頼めないかい?」


 さて。


 と言ったところで。


 ここで最後、『語り漏れていた』ことのみっつ目、小紫かおるのその後について語って今回は終わりにしようと想――え?「小紫かおるなら自分で自分の頭を撃って死んだのでは?」?


 ねー、ほんと、このお話の登場人物と来たら、どいつもこいつも、プロット無視でストーリー変えちゃってさあ、修正する身にもなれっての。


     *


 と言ったところで。


 ジジ、ジジ、ジージジジ。

 ジジ、ジジ、ジージジジ。


 耳もとに蝉か何かの鳴く音が聞こえ、彼の眠りは徐かに覚めて行った。


「ここはどこだ?」彼は想った。暗くくらい闇の中、未だ残る硝煙と血のにおいのその中で。目がおのずと開かれて行くのを感じた。


 ジジ、ジジ、ジージジジ。

 ジジ、ジジ、ジージジジ。


 肘が、膝が、足の親指が、この世界の空気――じゃねえな、なんだこりゃ? ビニールかなんかか?――に触れ、おもむろに、消えかけていた感覚が取り戻されるのが分かった。その他全身のこわばった筋の、ちいさなひきつれが、その僅かな響きがまとまり、彼の頭の中で連続する不協和音のように聞こえた。


 ジジ、ジジ、ジージジジ。

 ジジ、ジジ、ジージジジ。


 ぱちりと目を開け彼が見たもの、それは変わらぬ暗い闇であった。身体はなにか、袋のようなものにぴたりと入れられ、顔だけが外気に触れているのが分かる――うそだろ、おい――眠りの深さが頭に浮かんだ。どうやら相当ながい間、彼は眠っていたようであるし、また、なにやら浅い夢ばかりを見続けていたような気もした。


『くっそ、****』


 と彼がその生涯で唯一――いまのところ唯一――愛した女の名前が想い出された。その浅い夢のどれかひとつで、彼女に再会出来た、そんな気がしたからである。


 ジジ、ジジ、ジージジジ。

 ジジ、ジジ、ジージジジ。


 が、しかし、次に彼が想い描いたのは、またそれとは違う女の顔であった。その浅い夢のどれにも出て来はしなかった女の。


「いっつ」


 不意に、左頬に、走るような痛みを感じた。手で触れようとしたが袋に阻まれ、それは動かない。舌を動かし痛みのある場所を探る――なんだ? これは?――そう、それは、あの最後の瞬間、自ら銃を咥えさせられ、その引き金を――


「やあやあやあ、なんとか間に合ったようだね、えーっと? コタケザキくんだっけ?」


 ふたたび不意に、というか突然、ひとりの男が彼の顔をのぞき込んだ。


「あれ? コミヤヤマくんだっけ?」と軽い調子で、「ま、いずれにせよ、弾がはずれてよかったよ。ほっぺを破っただけで済んだからね――ひょっとして、わざと外したのかい?」


 男は丸い赤毛の外国人エイリアンで、なんだかとっても、ぶん殴ってやりたくなるような顔をしていた。が、夢で会った女が苦笑しているような気もした――ああ、殴っちゃだめなんだったよな。


「ま、なにはともあれ、コイチハラくん」男は続けた。彼を黒の遺体収納袋から出しながら、「君は現在、君たちの社会では死んだことに――って言うか実際、三途の川を一度は渡ったんだけど、そこは色んな方面にご協力頂いてね、まだ死ぬタイミングじゃないってことで、僕のレンチで黄泉がえりの儀式をしてもいいことになって、見事こうして復活したわけだけど――って、やっぱ天才だな、僕」


 それから男は、なんだかんだと早口で、訳の分からない話を延々とかおるにして来たわけだが、その意味なく長いおしゃべりの内容を要約すると、つまりはこういうことだった。


「君のヤスコちゃんへの気持ちは分かったよ」がしかし、「彼女には運命の先約が他にいてね」そこはあきらめて欲しい。なぜなら、「それが時空の終わりを防ぐことにもなるから」で、その代わりと言ってはなんなんだが、「彼女と彼女の恋人を守るための、影のボディガードを引き受けてはくれないだろうか?」



(続く)

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