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太陽系はこうして勝ち取られた。(1/2)


 『だからお願いだ、ペギー。

  どうか僕ら想い出だけは、

  どうか怒りに変えないで欲しい。』



 倉庫には屋外作業用の防護服が男女向けにそれぞれ六着、計十二着が吊るされていた。


 この施設の維持管理を任されている人工知能装備型コンピューターFUYU12000の話によると、地球人類が宇宙に向けて飛び立ってからこっち――何十世代? もの間――こちらの倉庫が開かれたことはなかったのだそうだが、これは、


『人類ノ方々ガゴ帰還サレタ際、スグニデモ中ノ物ガ使エルヨウ、適切ナ温度管理、湿度管理ソノ他ヲ行ナイ、ねずみ一匹、うぃるす一VPスラ通サナイヨウココロ掛ケテイルカラデス』


 とのことで確かに、扉の中はほぼほぼ完璧な温度・湿度に保たれており、何十世代? もの間放置されていたにしては、冒頭の防護服に劣化のようなものは見えず、また、床や壁に積まれたコンテナ類――きっと帰還した地球人類が必要とする食料その他が入っているのだろう――にも劣化はおろか、埃らしきものの積もっている様子すらなかった。


「子ども用――は、なさそうだね」ミスターが訊いた。「個人的には赤かオレンジがいいんだけど……」と防護服を物色しつつ、「男向けだとサイズが合わないかな?」


 彼は、背は高いが大変燃費の悪い体質をしており、その薄い胸板とひょろりとした手足に男用の防護服を着せたとしても、入学式の中学一年生のようにダボつきそうであった。FUYU12000が答えた。


『手足ノ長サハ調節出来マスノデ、みすたー様ノ体型デスト、女性用ノMカLさいずガヨロシイカト』


「MかL?」ミスターは言った。防護服のサイズを確認して、「えー、やだよ、こんなパステルピンクやラベンダー」


『シカシ、アマリだぼツイテモ、屋外活動ニ支障ヲ来タス恐レガ――』


「いや、そもそも、ほんとにそんなに危険な状態なのかい? 今の地球の表面は」


 と言うことでこちらは、前回にひき続き、時間的・空間的には我々の住む地球と同じ座標にあるものの、確率的にはまったく違う座標にある別の地球――の何だか分からない建物の中である。であるが、


『現在ノ地球ノ浄化率ハ、地表平均19.31%』と語るFUYU12000の言葉を信じるならば、『コノ建物周辺ハ、他ヨリモ浄化率ガ高イトハ言エ、ソレデモ21.41%ホドデスシ』いくらミスターが死んでも死なない(生まれ変われる)特異体質のエイリアンだとしても、『防護服ナシデノ屋外活動ノ許可ヲ下ロスコトハ出来マセン』と言うことらしかった。


「21.41%?」ミスターが訊き返した。「何十世代もかけて?」パステルピンクの防護服を身体に当てて見ながら、「宇宙からの影響はあくまで一過性のものだったんだろう?」


 FUYU12000の説明によれば、その何十世代? よりも更に昔、太陽フレアと宇宙放射線の大幅な増加が地球表面で重なった時期があったそうなのだが、


『マア、モチロン、ソレダケガ原因ト言ウワケデモナイノデスガ』


 そこに地球人類による地球環境汚染等々もあり、結果、河川は干上がり、砂漠化は進み、放射能汚染で地上はとても生物が棲める場所ではなくなったのだという。そうして、


『彼ラノ中ニ地下都市ヲ建設、移住シヨウトスルぐるーぷト』


 大型宇宙船団を組織、一旦宇宙へ逃げ、FUYUたち機械に地球の浄化・改善を任せたグループがいたのだと言う。ミスターが訊いた。


「地下に潜ったグループは?」シャツを脱ぎ、パステルピンクの防護服を着ながら、「そっちとの連絡は取ってなかったのかい?」


『当時ノ記録ニヨリマスト』FUYUが答えた。『地下都市完成直前、大規模ナ地震ガ起キ、彼ラノぐるーぷハ全滅シタソウデス』


「全滅?」ふたたび訊き返すミスター。服をナオに預け、いつものレンチは防護服のポッケに入れて、「ひとり残らず?」


『ハイ』FUYU12000は答えた。『一部、子ドモノ生存者ハイタヨウデスガ、地表ノ放射線ニ晒サレ、宇宙船団ぐるーぷノ救援モ間ニ合ワナカッタソウデス』


 カチッ。

 と、どこかの回路が鳴って、


 ブーン。

 と、どこかの回路が応えた。


「ふーん?」ミスターは口をとがらせると鼻をつまんで、何か言いたげな様子だったがそれは止め、「ま、いずれにせよ」と言って倉庫の出口扉へと向かって歩き出した。「いま僕らに必要なのは、この宇宙の確率的座標だからね。その観測のためにも、先ずは外に出してもらわないと」


『ハイ。みすたー様ノばいたるちぇっくハ、私ガ責任ヲ持ッテ行ワセテ頂キマス』


 前回も書いたとおり、彼らが今いるこの建物は、その敷地全体を強力なフォースフィールドで覆われており、そのためミスターとナオが再びジャンプ――彼らの目的宇宙へと向かうためのマルチバース・ジャンプ――を行なうための確率的座標を計測するには、この建物から外に出ないとならないのであった。ミスターが言った。出口扉の前で、


「多分、一時間……二時間くらいで終わると想うからさ」不安げなナオの前にしゃがんでやって、「そしたら次の宇宙に飛ぼう」彼女の肩を軽く撫でてから、「基準点さえ分かれば、後は安定して飛んで行けるさ」


 ナオは無言で彼を抱きしめると、そのまま彼を地表へと――放射線渦巻く地表へと――見送るのであった。


(続く)

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