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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第九話「あるものすべてはうつくしく。」
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その3


「理由は分からないけど、なんだか呼ばれているような気がして」


 と樫山ヤスコが花盛りの家への訪問を考えているころ、問題のその家のリビングでは、山岸まひろが奇妙な電話を受けていた。誰から? 山岸伊礼の恋人・川島重雄から。彼は言った。


『すみません。そんなこととは存じ上げず、大変申しわけありませんでした』と大変恐縮した態度で。


 と言うのも、こちらの家では現在、家主・山岸咲子の葬儀・告別式を数十分後に控え、関係者の最終確認を行なっているところであったからである。喪主の山岸富士夫が早く来るようまひろを手招きしていた。そのため重雄も、


『それではまた、改めてご連絡させて頂きますので』と急いで電話を切ろうとしつつ、『あ、いや、でも、ひと言だけ』となにかを想い出したかのように、『出来れば今日中か、遅くとも明日の朝までがよいのかも』そう付け加えた。


 何故なら彼の用件とは、伊礼からの伝言をまひろに伝えることだったからである。


『詳しくは教えて貰っていないのですが』重雄は続けた。伊礼と付き合っているとこの手の用事はよく引き受けるのだろう、慣れた様子で、『あなたの相談内容と、なにやら関係があるそうなのです』と。


 ちなみに。ここで伊礼が重雄経由で彼女に伝えようとしていたのは、祝部ひかりの特徴と彼女の高校の住所、それにそこの文化祭の日時と、ひかりのクラスの劇の演目、「ロミオとジュリエット」だった。そうして――、


     *


「そうだ。文化祭は明日で間違いない」


 彼らの会話と前後して、祝部優太はこう答えていた。彼の部下のひとりである小紫かおるに向かって、


「取り急ぎお前は、ひかりの高校に忍び込んで教室の様子や問題のドレスの写真を撮影、石橋先生に送ってあげてくれ、それを確認してもらう」


『殺人鬼と燃える男の方は?』電話の向こうでかおるが訊いた。優太は応えた。


「燃える男は深山に捜して貰ってる。殺人鬼の方は会社のデータベースに似たやつがいないか探っているところだが、どうにも『夢』……じゃなかった、『預言』の情報だけじゃ絞り込むのは難しいな。ただ、まあそれでも、これもいくつか候補を見付けて石橋先生に送ってみるよ」


 このとき実は、優太もかおるも、以前かおるが家探しをしたある男――行方不明中の灰原神人――のことが一瞬頭を過ぎったのだが、


「が、とにかく先ずは、本当にひかりかどうかの確認が先だ」との優太の言葉に考えを遮られることになった。「ひかりにはなにか理由を付けて文化祭を休ませることにしよう」


 が、しかし――、


     *


「“さあ、これがあなたの鞘よ。どうかそこで錆びて、私を死なせて。”」


 が、しかし、当のひかりに、文化祭を休む気も休む理由もひとつもなかった。もちろん、セリフへの不安が残るには残っていたが、


「“ああ、ロミオ、まだ唇が温かいのね。私の感じていること、考えていること、すべてなくなっても、二度と帰ってこなくても、私はきっとあなたのそばに居るわ。ずっと、ずっと、あなたのそばに――お休み、お休みなさいロミオ。”」


 と、不思議なことに、用意されたドレスを着、先名かすみとともに皆のまえに立つとき、自分でも驚くほどにすらすらと言葉が口を突いて出て来てくれるし、その流れのままかすみの横に倒れてみても――もちろん彼女の男装姿は変わらずとってもすてきだったが――以前のようにドキドキすることもなく、


「“ロミオッ! なんてことだロミオッ! どーして死んでしまったんだッ! 起きろッ! ロミオッ! 目を覚ましてくれッ!”」


 とやたらと熱い高木くんのベンヴォーリオ(ロミオの従兄弟)役や、


「“アア、ナンテコトだ、ジュリエット。セッカク、目覚ま……目覚めたというのに。ミズカラを貫き……貫いたノカ、ジュリエット、オオ、ジュリエット”」


 とどうしても緊張と堅苦しさの抜けない福井さんのローレンス神父(彼女は二人を結婚させる役だ)役に、


「ダメよ、ひかりちゃん。笑っちゃ」とかすみはひかりにささやくし、ひかりはひかりで、


「かすみちゃんこそ、笑っちゃだめよ」と彼女の手をとり同じく小声で、「あ、ほら、手がふるえてるじゃん」


 と、まるで子どもの頃に戻った感じで、ふたり一緒にくすくすくすくす、ちいさく身体を揺らしていると、


「“パリス! なんたることだ! 私の片腕として鍛えてやった恩を忘れたのか! ああ、この墓地は呪われている!”」


 と、その後登場した村上くん(台本製作)のヴェローナ大公(両家の争いを鎮める偉いひと)役が、びっくりするほど堂に入ってて、むちゃくちゃ上手で、


「“ローレンス神父、あなた達にも館に来て頂こう。この場所には見張りを付け、明日、朝一番に取り調べを行なわせてもらう!”」


 とビシッと決めたところで我慢が効かなくなったのだろう、死んでるはずのロミオとジュリエットが、


「あーっはっはっはっはっは!」


「村上くん最ッ高! 大公そのものじゃない!」


 と教室中にひびき渡るほどの声でわらい出したものだから、


「祝部さんッ! 先名さんッ!」


 と、担任の石田先生(32)に叱られることにもなった。が、それでもふたり、悪びれる風もなく起き上がっては、


「ほら、しかられた」


「さきに笑ったの、かすみちゃんじゃない」


 そうしてふたたび、あーっはっはっはっはっは。まるでこれまでのわだかまりがウソのように、ずうっとふたり親友であり続けていたかのように、いっそ前世からの知り合いですらあったかのように、見つめ合っては、わらい合うことになるのであった。ひかりは想った。


「ずうっと、こんな風にしたかったのかも」そうして、「明日はちゃんと、がんばらないとね」と。


 が、しかし――、


     *


「はい。確かにこのドレスで間違いありません」


 が、しかし、そんな彼女の想いとは裏腹に、彼女を取り巻く状況は不吉さを増していた。もちろん、彼女の知らないところでだが。右のセリフは、街の預言者・石橋伊礼のものであった。彼は続けた。電話向こうの祝部優太に。


「教室の方は、昼間の写真だからか、そもそも部屋がちがうのか、微妙に預言と異なりますが、それでも同じ建物のように想えます」


 預言が当たることを、悪い預言が現実になることを、石灰伊礼はいつも苦々しく想っていた。何故ならそれは、いつも手遅れの状態で彼の現実に再帰するから。預言の中で殺される少女のイメージが脳裏を過ぎった。


「はい。ひかりさんの写真も見せて頂きましたが、すみません。やはり当人かどうかまでの確信は持てませんでした」


 が、しかし、たしかに預言の中の少女の顔が暗闇に溶け込んでいたとは言え、ここまで状況がはっきりとしているのなら、彼女と見て間違いないのではないだろうか? 今回は現実に間に合う。変更出来るかも知れない。電話の相手はもちろん、ひかりの父・優太である。伊礼は考え、言葉を続けた。


「はい。まずは彼女を高校に行かせないのが一番だと想います。もし本当に例の殺人者が来たとしても、いない相手を殺すことは出来ないでしょうから」


 が、しかし問題は、彼女をどうやって納得させるかだった。ひかりも妻も優太の本当の仕事は知らないし、ましてや、「行ったらお前は殺される」だの「実は知り合いの預言者が」だのと言えるはずもない。電話の向こうで優太は悩んでいた。いたのだが、この問題は、何故かまったく別の方向から解決されることになる。


 そう。祝部ひかりが、別のクラスの女子を突き飛ばし、ケガをさせてしまったのである。



(続く)

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