表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第九話「あるものすべてはうつくしく。」
140/172

その1


 これは、今回語るのは、祝部ひかりがひとりの友人を失くしてしまった、その顛末である。


 が、とは言っても、いつもの通り、いつもの如く、そこにたどり着くまでには色々とまわり道をしないといけないし、そこにたどり着いてからもお話は続くワケだけれど――そう。それはまるで我々の人生と同じように。


 そう。なのでこれから我々は、我々が我々の人生をふり返るのと同じように、その悲劇のすこし前から、その悲劇の経緯を追ってみることになる――それが、死者を弔うことにもなるだろうから。


 そう。そのため今回は、祝部ひかりの文化祭の前日、朝、彼女が清水朱央と出会うところからはじまる――正直この時、彼女は少々浮かれていたのだが。


     *


「なんだかご機嫌だね」と清水朱央は訊いた。


 と言うのも、くり返しになるが、彼の横を歩く少女、祝部ひかりが少々浮かれていたからである。まるで一昨日までのごちゃごちゃをまとめて忘れたか、どこかに放り出して来たかのように。


「そう?」祝部ひかりは応えた。「きっとなんだか、うれしいことがたくさん起きてるからかもね」


 クラスの幼なじみとは文化祭の準備を通してなんだか再び仲よくなれている気がするし、いま、となりを歩くボーイフレンドは冴えないけれどなんだかとってもキュートだし――って、こっちは彼には言えないけれど。なので代わりに、


「ちゃんと来てよね、文化祭」と彼女は続けた。「あ、でも、かすみちゃんに惚れちゃダメよ。いくら彼女がステキかっこいいからって」と。


 正直セリフに不安は残るが、それもロミオが、かすみちゃんがフォローしてくれるし、以前あったような彼女へのドキドキ――ロミオに扮した彼女へのトキメキ――なんかも今ではもうほとんどない。彼女と私は、やっぱり友人同士だし、それが劇の準備を通して――あるいは朱央と彼女を一緒に見たことで――自分の中でもはっきり分かった。なので彼女は、


「たしかに。カッコいいもんね、先名さん」みたいなことを彼に言われると、


「む?」とすこし嫉妬みたいなものが頭をもたげて来そうにもなるが、そこはそれ、


「あ、もちろん。ひかりちゃんのジュリエットが一番見たいけどね」とすぐに訂正と弁解を入れて来る彼の言葉なんかに、


「むふふふふふふ」と得意な気持ちにもなれたりした――このひと絶対、私のことが好きなのよね――なので彼女、祝部ひかりは、自身の足が地面から3mmほど浮いていると誰かに言われたとしても、「そうねー、浮いてるかもねー」といまなら笑って返せる自信があった――だってそうでしょ? と。


 彼や彼女のことはもちろん、ずっとわだかまっていた実の両親のことにしたって、資料を見たらやっぱり何だか赤の他人で、いまのお父さんやお母さんの方がずうっとお父さんでお母さんだし、お父さんはいまのお父さんの方が断然カッコいいし、お母さんもいまのお母さんの方がずうっとキレイで優しいし。それにそうそう、お父さんと言えば、


「そう言えば昨夜、電波障害? 通信障害? があったんだって?」ひかりは訊いた。「朱央気付いた?」


「え?」朱央は応えた。正直その時の記憶はなかったが、「ああ、なんだかSNSで話題になってたね。この辺りだけらしいけど」


「そうそう」とひかり。なぜか嬉しそうに、「私そのとき丁度お父さんと電話してたんだけどさあ――」


 この『通信障害』とは、要は、佐倉八千代の暴走が引き起こした人間たちの記憶や各種記録媒体のブラックアウトについて、適当な説明を試みようとした人々がたどり着いた、取り敢えずの仮説、落としどころであった。ひかりは続ける。


「そしたらお父さん、よっぽど心配になったのか、残業ほったらかして帰って来たのよね」と、更に足を地面から浮かせながら、「いっつも『仕事がいちばん』みたいな顔してるくせにさ」


 もどって来るなり彼は、娘と妻をきつく抱きしめたのだという。


「ほんと、お父さんの娘でよかったって想ったわよ、わたし」


 と、朱央の手前、流石にそこまでは言わなかったが、それほどひかりは、父・優太の愛情を、改めて感じた様子でもあった。そうして――、


     *


「なるほど、ありがとうございます。石橋先生」


 と、丁度それと同じころ、問題の父親・祝部優太は、“あなたの街の行政書士”街の預言者の石橋伊礼からの電話を受けていた。


 彼は、昨夜の混乱のあと、急遽帰宅した優太の代わりに小紫かおると打ち合わせ、彼らのため――ひかりと想われる女子高生が殺されることを防ぐため――、そうしてまた、伊礼が見続けている奇妙な預言――終わりを迎える世界のヴィジョン――の謎を解き明かすため、彼らと協力し合うことにしたのであった。


「なるほど。それではひかりの高校の写真と問題のドレスの写真をなんとかして送りましょう」優太は続けた。「くり返しになりますが、犯人の顔も、女の子の顔も、はっきりとは見えなかったんですね?」


 第八話の最後でも書いたとおり、預言の中で伊礼は、殺された少女の顔も、彼女を殺した殺人者の顔もはっきり見ることは出来なかった。が、しかし、ひかりが舞台で着るドレスと、彼が預言で見たそれが同じであれば、預言の少女が祝部ひかりであることは大方証明されることになる。


「念のため、ひかりの写真も送っておきますよ」優太は言った。「なにかを想い出す取っ掛かりになるかも知れませんし」高校とドレスの写真はこれから撮影に向かわせますので、「しばらく待ってもらうことになるでしょうから」


 それから彼らは、世界の終わりのビジョンについてもいくつか話をしたが、先ず、ひとを燃やす青年について、優太はすこし考えてから口をつむぎ、そうしてまた、伊礼は伊礼で、光と影の合間に見えた山岸まひろの姿について口をつぐんだ。互いに、問題の殺人を防ぐことこそ先ずは優先しよう――そう自分たちを騙してのことであった。


 そう。実際のところ優太は、件の人体発火について、伊礼に説明する前に、先ずは深山千島に確認を取らなければならないと考えていたし、伊礼は伊礼で、優太に説明する前に、先ずはまひろに連絡を取りたいと考えていたからであった。伊礼は訊ねた。


『今回の件ですが、祝部さん』それでもすこし探る感じで、『他の人たちに話しても?』


 優太が善人であることは伊礼にも直感で分かっていたが、それでも、彼が根っからの会社人間・組織人であることも、彼は直感で理解していた――信用し過ぎるのは危険だ。


「他の人たち?」優太は訊き返した。


 もちろんこちらも、伊礼が善人であることをはっきり理解していたが、それでも、組織で動いている以上、外部との繋がり、不安要素は極力減らしておかなければならない。彼は続けた。


「昨夜、小紫からもお話したとは想いますが」と一瞬考えを巡らせてから、「我々のことは出来得る限り内密に。動かなければならない時に動けなくなるのがいちばん困りますから」


 伊礼のスマホと事務所並びにマンションへの盗聴器設置は、昨夜かおるが済ませている。メールなどのチェックは深山に任せればいいだろう。


「是非、ご理解頂ければ」優太は続けた。


『恋人との連絡は?』伊礼は訊き返した。『もちろん皆さまのことは話しませんので』


「ええ、それはもちろん」優太は応えた。「恋人の方だけでなく、普段の生活は普段どおりに続けて下さい。我々もそうしていますので」



(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ