第1章:旅立ち
第1章:旅立ち
かつて、この世界には栄華を誇った文明があった。空を飛ぶ乗り物が行き交い、鉄とガラスの塔がそびえ立ち、夜は人工の光に包まれていた。しかし、大いなる戦争と天変地異がそれらを全て奪い去った。文明は滅び、世界は荒れ果てた。
そんな世界の片隅に、一人の女が住んでいた。
彼女の名はオトセ。
彼女が生まれた頃には、すでに文明の痕跡は風化し、人々は過去の繁栄をほとんど知らずに暮らしていた。語り継がれる伝承の中で、かつての都市や技術の存在は神話のように扱われていた。
オトセは幼い頃から過酷な環境で生き抜いてきた。彼女の家族は荒れ果てた土地で細々と食料を探し、獲物を狩りながら生きていた。しかし、飢えと病が彼女の家族を奪い、やがて彼女はたった一人で生きることを余儀なくされた。時が経ち、オトセは川辺の近くに小さな住処を構え、そこでひっそりと暮らしていた。
ある日、オトセは川の水面に何かが浮かんでいるのを見つけた。流れてきたのは、金属でできた古びたカプセルだった。何十年も前の文明の遺物かもしれない。その表面には、かすれた文字で「実験体MOMOTARO」と刻まれていた。
女は戸惑いながらも、慎重にカプセルを引き上げた。中には幼い少年が横たわっていた。手を伸ばし、カプセルに触れるとそれはゆっくりと開いた。
蓋を開けた瞬間、中から冷たい空気と共に幼い少年が目を覚ました。
彼の体には機械の部品のようなものが組み込まれ、瞳には奇妙な光が宿っていた。だが、その顔立ちはまぎれもなく人間だった。
オトセは恐れを抱きながらも、彼を見捨てることはできなかった。
「……おまえは……?」
オトセは慎重に声をかけた。少年はしばらく彼女を見つめた後、口を開いた。
「わからない……」
自分が何者なのか、なぜここにいるのか、何も知らないようだった。オトセはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑い、少年の頭をそっと撫でた。
「なら、お前は今日からモモタロウだ。」
こうして、モモタロウはオトセと共に暮らし始めた。
モモタロウは驚くべき力を持っていた。彼の腕は鉄よりも強く、目は闇の中でも物を見通し、肌は炎に耐えた。オトセは彼を普通の子供のように育てようとしたが、その能力の異常さは隠しきれなかった。
ある日、食料を求め少し離れた廃墟探索していると奇妙な音が響いた。オトセとモモタロウが音のする方へ向かうと、巨大な影がうごめいていた。
それは、錆びついた鋼鉄の腕を持つ異形の機械だった。
古びた建物を引き裂き、歪んだ電子音を響かせながら、暴れ続けていた
オトセは息を呑み、モモタロウの腕を引いた。
「あれは鬼だ。」
モモタロウはじっと鬼を見つめていた。彼の胸の奥で、何かが疼いた。自分は何者なのか?そしてなぜ、あの鬼を見たとき、こんな感情が湧くのか?
モモタロウはオトセと共に静かに身を潜め、鬼が去るのを待った。
鬼が去り家路にたどり着くとオトセは語り始めた。
「かつての戦争の遺産、暴走した戦闘用兵器。あの廃墟はまさか……いや、忘れろ。知ってもいいことはない。」
オトセは窓に映る月を寂しそうに見つめていた。
モモタロウは彼女の言葉の裏に何かを感じた。だが、オトセはそれ以上何も語らなかった。
数年が経ったある日、異変が起こった。オトセが食料を探しに行ったまま、戻らなかったのだ。
モモタロウは必死に彼女を探した。そして残された彼女の籠と足跡を見つけた。足跡は続いていたが、それは人間のものではなかった。巨大な爪跡と、機械の残骸が混じっていた。
鬼がオトセをさらったのか?
そう思ったモモタロウは拳を握りしめた。彼の中で、炎のような怒りが燃え上がる。
「……助けなければ。」
彼は何かに導かれるように廃墟へ向かった。奥深くに進むとそこで頑丈に閉ざされた扉を見つける。手をかざすと扉は自然と開いた。
錆びついた銃、壊れた剣、そして動かぬ機械兵たち。
そこは武器庫だった。
その中に、奇妙な装甲が眠っていた。
それは、モモタロウの腕にぴったりとはまる機械の籠手だった。彼がそれに触れると、微かな電子音と共に、装置が彼の腕に同調した。
「これは……」
彼は目を細め、拳を握った。これが何なのかは分からない。だが、鬼と戦うためには必要だとわかった。
モモタロウは装甲を装着し、オトセを救うために歩き出した。
こうして、彼の旅が始まるのだった。
この度は、私の小説を読んでくださり、本当にありがとうございました。
物語を最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
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これからも精進してまいりますので、また読んでいただけたら幸いです。