76.レイナって肉が好きだよね
というわけでシンが着替えるのを待って二人で近所のファミレスに行った。
中途半端な時刻なのでガラガラだった。
シンが日替わりランチを注文したので聞いてみた。
「そんなに安いのでいいの?」
社長なんだしお金はあるはずなのに。
「僕にはこのくらいが似合いだよ。
というより仕事で取引先と食事したらやたらに高級な店に連れて行かれてね。
正直、回ってない寿司とかフランス料理のフルコースとかには飽き飽きしている」
そういうものか。
レイナの方は未だに日本の食事なら何でも美味しいので何でも良かったのだが、今回はちょっと奮発してステーキにした。
シンの奢りだと思うとお金を使う事への後ろめたさも薄れる。
出所は一緒なんだけど。
「レイナって肉が好きだよね」
「大聖殿ではこんな肉の塊なんか絶対に出てこなかったから」
「そうだよなあ。
今思うとあそこってベジタリアンの巣だったような」
ビーガンかも、と呟きながらハンバーグやコロッケを食べるシン。
「それ、美味しい?」
「美味いけどそういうのは主観的な感想だから。
そっちのステーキの方が美味そうだ」
「食べる?」
「頂きます」
ふと気づくと視線が集まっていた。
少ないお客さんやウェイトレス、ウェイターすらこっちを観ている。
いつものレイナ目当てかと思ったが感触が少し違う。
「シン」
「何?」
「アベックだと思われてるみたい」
「あー。
イチャついているようにしか見えないか」
別にいいんじゃないの、と言い捨てるシン。
やっぱり大物だ。
リンに教えて貰ったところでは、アラサーの男と十代の女の子のカップルは即エンコーとやらに観られるらしい。
シンはそんなこと思ってもいないだろうけど。
レイナも気にしないことにして食事を続けた。
「僕はこれからちょっと行く所があるから」
食い終わったシンはカードで払うと早々に消えた。
やぱり奢りだった。
レイナが持っているお金もシンが出しているんだからあまり関係ないけど。
ドリンクバーのコーヒーを飲みながらまったりしていたら、一人になったことで視線が更に強度を増してきたようなのでレイナも退散する。
さて。
帰ってアニメでも観るか。
翌日、夜間中学でレスリーに会ったが何事もなかったかのように挨拶してきた。
まあ、何もなかったんだけど。
それでも気になるのでリンが先生に呼ばれて黒板相手に四苦八苦している間に聞いてみた。
「あれからどうなった?」
「判らないです。
私は幹部ではありませんので」
やはり下っ端か。
言わば工作員だものね。
「でも、伯父はすぐに英国に発つと言ってました。
テレビ電話では済まない話になってきたからだと」
「ああ、本国で会議とかするわけ?」
「みたいですね。
ところで聞いて良いですか」
レスリーが真剣な瞳を向けてきた。
「答えられることなら答えるけど」
「それじゃ。
あの、シンさんって」
「あ、それは駄目」
しょぼんとするレスリー。
まあ、衝撃だったことは判る。
目の前で小規模とはいえ奇跡を起こされたわけで。
手品と思えなくも無いが、タイロン氏がわざわざ自国に戻るということは、それなりの重大事なわけだ。
シンが聖力使い、というよりは始祖とやらと同種の人間だと判明してしまったから。
リンが戻って来たのでレイナも教科書に向かった。
数学の証明問題を解きながら考えてみる。
レスリーたちの組織にしてみれば、シンが聖力使いだと判明した事は一種の変革かもしれない。
始祖はミルガンテからやってきたのだから、当然生まれながらの地球人ではない。
レイナもそれは同じで、忽然と現れて聖力を使う異世界人だ。
だけどシンは違う。
由緒正しい? 日本人で経歴もはっきりしているのに聖力使い。
つまり、ミルガンテ人でなくても聖力が使えるようになる、と思われても不思議ではない。




