75.やっぱり悪の組織じゃない?
それはそうだろう。
予言だか何だか知らないけど、何百年も前に書かれた指示に従ってばかりでは生き残れない。
参考程度にして、後は好き勝手やっているとみた。
「そういえばあの人が言っていた『始祖』ってミルガンテの人なの?」
気になっていた事を聞いてみた。
「それっぽいけど、どうかな。
聞いただけじゃよく判らないんだ。
でも何となく、ミルガンテから転移はしてきたことは確かだけど大した聖力持ちじゃなかったような印象を受けたな」
「どういうこと?」
大聖鏡を使って転移してきたのなら聖女とかじゃないのか。
「ほら、僕とレイナみたいな」
「ああ、そういうこと」
シンの前世は日本人で、その前世の自分が生きている時代に転移して憑依した。
魂が同じだから大した聖力を持たないシンでも出来たのだが、始祖もそれと同じだと。
「それにしてはおかしな所もあるんだけど。
タイロン氏の話によると、ふらりと現れた始祖さんは最初現地の言葉を話せなかったらしい。
もともとそこで暮らしていたというか、前世の自分に憑依したのなら、それっておかしいだろ」
「そうね」
「まあ、当時は今と違ってちょっと離れたら違う言葉を話していたらしいからあり得ないわけじゃないと思うんだけど。
でも預言書を残しているってことは、つまりその時代より後の世界で生きていたことになる。
これはまあ、僕がそうだから頷けないこともない」
「そうね」
「残した指示についても一応は説明がつくんだけどね。
僕も同じだけど自分の存在によってあまり歴史を変えたくないというか。
下手するととんでもない結果になるかもしれないし」
「え、でも」
「そう。
僕はもう歴史を変えているけどね。
サラリーマンを辞めて会社作ったし。
この程度で世界の歴史に影響があるとも思えないけど波及効果が怖いんだよなあ」
口では殊勝なことを言いながら呑気にビールを飲むシン。
あまり怖がっているようには見えない。
「その割には平気そうだけど」
「僕個人がいくら頑張ってもそうそう歴史なんか変わらないよ。
でもタイロン氏のところは金も力もある組織だからね。
何世紀も前からあるみたいだし、その気になれば」
世界も支配出来るかもね、とシンは投げやりに言った。
そういうことか。
聖力なんかなくても将来を知っていればその組織は無敵に近いのでは。
少なくとも金と権力は簡単に手に入りそう。
「やっぱり悪の組織じゃない?」
「組織自体に善とか悪とかはないよ。
指導者がどう考えて何をするかで決まってくる。
ま、僕たちに直接関係ないんだったらほっといてもいいんじゃない?」
シンって虚無的というか悟っているというか、面倒な事は考えたくなさそうだった。
やはり一度死んでミルガンテに転生したことが関係しているのかも。
諸行無常とか。
こないだ観たアニメがそれっぽい話だったけど、レイナ自身には関係ないから忘れる事にする。
「それで、これからどうするの?」
「なるようになるんじゃない?
あ、そうそう。
レイナには極力干渉しないようにするけど、レスリーさんはこのままレイナのそばに侍らせて欲しいと言われたよ」
「ああレスリー」
「監視役というか情報収集係だったらしいけど、本人の希望でこのままレイナのそばにいたいそうだ。
レイナが嫌なら断るけど」
「別にいい」
レスリーがスパイだったことについては特に思うことはなかった。
そうだろうなとは思っていたし。
むしろ連絡役として使えそうだ。
「あと、何か要望があったらできる限りのことはしてくれるらしいよ。
その代わりにちょっとした依頼をするかもしれないって」
「それは嫌だな」
「嫌なら断ってくれてもいいってさ。
レイナの好きにすればいい」
ビールを飲み干すとシンは立ち上がった。
「このくらいかな。
他に聞きたい事ってある?」
「今のところはない」
「よし。
本格的に腹が減ってきたから僕は食事に行くけど、どうする?」
「もちろん」




