6.とんでもない怪物だ
「やってみる」
レイナは立ち上がった。
聖力を解放する。
シンがホームセンターとやらで買い込んできた袋や箱に加えて風呂場の湯船に溜まっている水をも聖力で包むと「発動」させた。
「おおっ!」
シンの興奮した声が聞こえたが構ってはいられない。
目を閉じて一心に祈る。
私の身体は酷い損傷を受けている。
欠損した部分を再構築しなければ。
ズゾゾゾッというような音が響いた。
部屋の隅で見守るシンの前で奇跡が起こっていた。
目を閉じて祈るレイナめがけて風呂場から大量の水が空中を流れ込んでくる。
同時にホームセンターで買った原材料も吸い上げられるようにレイナに向かって行く。
鈍い光が絶えず明滅し、部屋中に何とも言えない音が大音量で響いた。
ヤバい。
このアパート、防音大丈夫か?
両隣と下の部屋には後で謝っておかないと。
奇跡は1時間ほども続いた。
幸いにして周囲の部屋は留守だったらしくて文句を言いに来る人はいなかった。
だが音と振動はかなりのもので、特に明滅する不気味な光が怪しすぎた。
慌ててカーテンを閉めたけど外からはどう見えているのか。
気がつかなかったことにする。
そして、創造は唐突に終わった。
光と音と振動が停まった部屋の中央には美少女が立っていた。
聖女の衣装を纏ったその姿はシンが大聖殿で時々見かけた聖女見習いそのままだ。
つまり、レイナにとっての自分のイメージがそれなんだろう。
しかし身体だけじゃなくて衣装も復元するとか凄すぎない?
「……どう?」
レイナが目を閉じたまま言った。
ビビッている臭い。
「成功したと思うよ。
目を開けてごらん」
「……やった、の?」
恐る恐る目を開ける美少女。
手の平を広げてまじまじと見たかと思うと身体中をパンパン叩いて確認している。
「……良かった。
服を着ている」
「そういうイメージなんじゃないの?」
「そうかも」
そういえばレイナは聖女見習いだった。
聖女は神官と違って制服を着る必要はないが、かといって私服で良いというわけではない。
基本的には身体をすっぽり覆うマントとベールで姿を見せない。
ブルカに近いかもしれない。
今のレイナの姿もそれだった。
もっとも首から上は剥き出しで、だから美少女であることがバレている。
「それも普段着?」
「外出着かな。
お部屋の中ではもっと軽装よ」
なるほど。
「それにしても凄いものだね。
本当に身体を作ってしまうとは」
「何よ。
貴方がそうしろと言ったんでしょ」
「それはそうだけど、僕にはとてもそんなことが出来る聖力はないから」
神官見習いでしかなかったシンの聖力は大した強さではなかった。
もちろん一般人に比べたら桁違いに強力だが、それでもちょっとした奇跡を起こすのが精一杯だ。
手の平の上に火を出したりちょっとばかり重い物を持ち上げられたり。
逆に言えば聖力を使えれば常人には出来ないことが出来てしまうのだが。
もっともそれは自分の魂を削ることなので下手すると命が危ない危険な行為ではある。
「ところでどう?
聖力は安定している?」
「大丈夫みたい。
漏れはなくなっている」
大したものだ。
それはつまり、レイナの身体と魂が完全に適合していることを示している。
しかもレイナを見る限り大して消耗した様子もない。
人の身体を作り上げて尚、十分な余裕があるということか。
恐るべし聖女。
とんでもない怪物だ。




