67.それって二人でってこと?
「ま、気にすることはないよ。
無視していればいい」
「そうね」
というわけでみんなで遊んだのだが、相変わらず視線は感じるものの、声を掛けてくる勇者はいなかった。
というよりはやりたそうにしているイケメンがいても、なぜか一定以上には近づいて来ない。
高校生らしいグループがプールの真ん中で呆然と立ちすくんだままこっちを見ている。
大学生らしい男だけのグループが戸惑ったように議論していたり、背の高いイケメンが近づいてこようとしていきなり90度向きを変えて去って行ったりしている。
拙い。
明らかにレイナの聖力が働いている。
聖力は意識して使うことが出来る力だが、無意識に発動する場合もある。
これは人間が持つ防衛本能のためで、危険だと思ったり、そうなりそうな場合、本人が知らないうちに原因を遠ざける方向に働くこともある。
言わば無意識の障壁で、レイナの聖力はこの状況をヤバいと結論づけたのだろう。
同じ聖力持ちとか、あるいはよほど強い意志の力を持ってすれば突破出来ない事も無いが、それをやったらレイナの聖力が本格的に反撃しかねない。
「私、ちょっと疲れたから休んでくる」
レイナはそう言ってプールから上がった。
「あ、私も」
レスリーがついてきた。
プールサイドに並んでいる寝椅子に寝そべる。
レスリーも隣に並んだ。
見ているとナオたちに男達が群がっている。
やはり。
まあ、あの3人なら大丈夫だろう。
ため息をついた途端、レスリーが話しかけてきた。
「あの、いいですか」
「何?」
つっけんどんな言い方になってしまうのは仕方がない。
未だに警戒を続けているのだ。
レスリーの得体の知れ無さはむしろ高まっていると言って良い。
「その、個人的にお話ししたいことがあるのですが。
皆さんを交えずに」
「それって二人でってこと?」
「出来ればシンさんを交えて。
こちらも一人、同席します」
来た。
いずれ仕掛けてくるのは判っていた。
ミルガンテの大神殿では先読みが重要だった。
不意を打たれるとそれだけで負ける。
だからレイナも覚悟はしていた。
「いいよ。
いつ?」
「こちらはいつでも。
レイナさんとシンさんの都合の良い時に」
「判った」
おそらくレスリー個人の意思ではあるまい。
後ろに誰か、ひょっとしたら組織がいるはずだ。
この時点で接触を進めようというのは多分、観察期間が終わったという所だろう。
静かに覚悟を決めるレイナだった。
「それにしても皆さん、モテますね」
用が終わってほっとしたらしく、レスリーが呑気に話しかけてきた。
「アニメではよくあるシーンだから」
「現実とアニメは違うと思ってましたが」
「ラブコメとは違うと思うけど。
そういえばレスリーってアニメファンだったっけ」
「いえ、アニメヲタクです」
堂々と言い放つ英国人美少女。
「そうだっけ」
「もっとも読み専ですけれど」
「コスプレとかしないの?」
「したいのですが、親の許可が下りなくて」
したいのか。
すれば人気出るだろうに。
まあどうでもいいけど。
無責任なレイナだった。




