64.今は秘書の学校に行ってるんだっけ
シンに相談したら言われた。
「アイススケートや体操とかは?
個人技だから誰かを攻撃する必要がないし。
適当に手を抜けば普通の人に見えるんじゃない?」
とりあえずやってみたら極端だった。
聖力を使わなければレイナは運動能力が低い方なのだ。
かといって使ったらやっぱりオリンピックで金メダルが取れてしまう。
新体操も考えたがシンに否定された。
レイナの場合、外見だけで注目の的になってしまうそうだ。
「そうなの?」
「レイナ、判らないのも無理はないけど、君の容姿は何もしなくてもモデルやグラビアアイドルで通用するくらいなんだよ。
そんなのがスポーツやったら」
というわけでレイナは体育の授業を見学することにした。
丹下先生には渋い顔をされたが、シンの言った事を伝えて目立ちたく無いのだというと納得してくれた。
夜間中学を平穏に運営していくためには担任には清濁併せ呑む覚悟が必要らしい。
「それはそうだろう。
ここに来ている奴らってみんな曰く付きだぜ」
珍しく出席したサリが教えてくれた。
「そもそもまともに学校に通えない連中が最後に辿り着いた場所なんだよ。
全員が訳ありと言っていい。
だからみんな知らない振りをしている」
「サリも?」
「私なんか大人しいもんだよ。
レイナだって色々突っ込まれたらヤバいだろ?」
そうでした。
シンの尽力で日本国籍を得たとは言え、レイナの経歴は表沙汰に出来るものではない。
誰かが調べたらあっという間に不都合がバレそうだ。
「ま、本当にヤバいと思ったら一身上の都合とかで退学すればいいんだけどな。
ここの卒業証書に拘る必要は特にない」
「そうなの?」
「ああ。
ナオなんかもそうだったけど、国が認めた公共教育機関の正規の生徒という身分が重要なのであって、ここでの教育や卒業資格はあんまり役に立たないからな。
この課程をスルーする手段はあるし」
「ああ、高認とか」
「そう。
学歴が欲しいんだったら高認取って大学行って卒業すればいい。
そうしたら立派な大卒だ」
まだ若い連中はみんなそれを目指しているそうだ。
中にはナオみたいに拘っていない者もいるらしいけど。
「ナオは違うの?」
効いてみたらサリは思案顔になった。
「私もあいつのことはよく判らない。
そもそも不登校で小学校中退とか言っているだろ?
あれ、どうもイジメとかじゃなくて授業があまりにもつまらな過ぎて行かなくなっただけみたいだ」
「どうして……ああ、そうか」
「頭が良すぎて適応出来なかったって奴だろうな。
ギフテッド認定はされてないけど、それに近いとみた。
その気になれば東大にでも行けると思う。
実際、あいつの妹は行ったし」
東大という大学が日本における最高学府の頂点であることはレイナも知っている。
もっとも、どっちかというと官僚や国家に役に立つ者を養成する機関であって、本当に頭がいい人や研究者になりたい者は別のところに行くらしいけど。
「ナオは官僚になりたくないのかな」
「だろうな。
あいつの妹にも会ったことあるけど、お姉ちゃんは私なんかよりずっと頭がいいとか言っていた」
そんなのが引きこもりから夜間中学出というんだから面白い。
「今は秘書の学校に行ってるんだっけ」
「らしいな。
私もアイツが何を考えているのかはさっぱりだ」
そんなことを言い出したらこのサリだって謎だし、リンはともかくレスリーなんか怪しさ爆発だ。
いや、レイナが一番ヤバいか(笑)。
あまり突っ込まないようにしようと決心するレイナだった。
ところで夜間中学には他にも色々いるのだが誰も接触してこない。
レイナだけでは無くてサリやレスリーも遠巻きにされている。
理由は何となく判るのだが。
「そりゃあ、異質すぎて声を掛けられないんでしょ」
リンは比較的他の同級生たちと話しているみたいなので聞いたら言われた。
「異質?」
「そ。
どうみてもあんたらは一般人じゃないものね。
そういうヤバさって露骨に判るから」
そうなのか。
アニメだとすぐに美少女に告白してくる生徒がたくさんいるのだが。




