5.それは禁忌よ!
「無理!
そもそも、それは禁忌よ!」
「ここはミルガンテじゃないし、君ももう聖女候補じゃない。
やらないとそのうち死ぬけどいいの?」
「……」
そうだった。
このままではいずれ消滅する。
聖力の塊である魂は、肉体を纏っていなければ不安定になってどんどん消耗していく。
単に力が失われるということではなく、レイナを構成している人格や記憶すら欠けていって、ついには自分が人間であったことすら忘却して溶けてしまう。
最終的には死、いや消滅だ。
聖力を失った神官や聖女は怪我もしていないし病気でもないのに生命活動が停止してしまうのだ。
もちろん寿命でも亡くなるが、それも結局は聖力を消耗して魂が摩滅するからだ。
逆に魂が健在でも肉体が生命活動を維持できなくなるほど損傷したら死ぬ。
もっともその場合、聖力の塊である魂はしばらく残ると聞いている。
いずれは消えてしまうが。
「今の君は肉体が徹底的に損傷した状態と同じだ。
普通の神官ならもう死んでいるところだけど、聖女候補である君はまだ十分な聖力を残している。
ちょうど火炎に焼かれたイムリスと同じで」
「でも……損傷を治すのと、一から身体を造るのは全然違うんじゃ。
そもそもどうやっていいか判らないし」
弱々しく反論するレイナにシンは自信ありげに言った。
「もう忘れたのか?
聖力は現実をねじ曲げる力なんだよ。
もっともそれにも限度はある。
何も無いところから身体を作り上げるのは無理だ。
だから」
シンは部屋の真ん中に置かれた袋や箱を示した。
「こうやって材料を揃えた。
ちなみに人体で一番多い酸素や水素は風呂場に水を溜めるからそれを使ってくれ」
「無茶苦茶ね」
「僕は別にいいんだよ?
出来なくて困るのは君だし」
そう言われてしまってはどうしようもない。
シンが「湯船に水を溜める」と言って部屋を出て行ってしまうとレイナはぺたんと座り込んだ。
手の平を広げてみる。
いつもと変わらないように見えるが実体はない。
積み上げられた袋に手を伸ばすと何の抵抗もなくすり抜けた。
ぞっとする。
手の平に聖力を集中してから再度手を伸ばすと触れる事が出来た。
しかし聖力がどんどん消耗していくような気がして、慌てて手を引っ込める。
これは駄目だ。
「用意出来たよ。
風呂場のドアを開けておくから」
シンが呑気に言って手で指し示すと湯船が見えた。
聖力で探ってみたら水の感触があった。
「で、どうする?
外に出ようか?」
「……見てて」
一人にはなりたくない。
神官見習いなら聖力についても私よりは詳しいだろうし。
もっとも人体復元、じゃなくて創造の方法なんか習ってないでしょうけれど。
「アドバイス。
聖女は破損が酷い肉体を癒やすことが出来るでしょ。
その応用でやってみたら」
そうか。
大怪我をした者を癒やしたことはある。
聖女見習いとして訓練は受けていたから。




