60.私、遊園地に行きたい!
朝食はデリバリーだった。
レスリーによればそれが定番だそうだ。
それもそうか。
モデルルームだから食事の用意などしているはずがない。
一応は炊事用具が揃っているけど材料がないから料理なんか出来ない。
そもそもここに泊まる人は顧客なので自分では料理なんかしないだろう。
「お泊まりコースってあるの?」
「我が社のサービスです。
オプションになりますけど」
レスリーが言うには不動産販売も最近は世知辛くて、実際にそこに泊まって色々と確認したい客も多いそうだ。
なのでそういうコースを作ったところ、結構視察が増えたとか。
「このお部屋は景色が売りですので。
昼間もなかなかですが、やはり夜景が」
「なるほど」
「こんな部屋買っちゃう人って最高を求めるってことか」
レイナは恐れ入るばかりだった。
そこまで考えないと物が売れないのか。
日本、いやこの世界の人達はみんな凄い。
そうか。
だから義務教育だけで9年もかかるし、普通に就職するにはそれでも全然足りなくて更に7年も勉強すると。
ミルガンテなんか国民のほとんどが文盲だもんなあ。
密かに落ち込むレイナだった。
食べ終わってレスリーが煎れてくれたコーヒーで寛いでいるとサリが言った。
「それで、これからどうする?」
「レスリーの歓迎会のはずだったのに接待させちゃったし」
「そんな。
私は楽しかったです」
そういえばそういう名目だったような。
「みんなでどっかに行く?」
リンが言って、レイナは思わず口を挟んだ。
「私、遊園地に行きたい!」
全員がレイナを見る。
「……まあ、定番か」
「それいいかも。
ちょっとお金かかるけど」
みんなが何となくサリを観る。
バイト三昧の人に強要して良い物かどうか。
「何だよ!
そのくらいの余裕はあるから!」
「でもネズミーランドとか入場料だけで下手したら万近く行くよ?」
「大丈夫!
任せなさい」
いや、別にサリに奢って貰おうとかは思って無いけど。
「ネズミーランドは混むからなあ。
しかも休日だし」
「近場にそれなりのところってある?」
「有名どころだと○武動物公園とか」
ナオが言うけどみんな知らなかった。
「それって動物園じゃないの?」
「複合施設よ。
動物園に植物園、遊園地にプールなんかも付いている」
「いいじゃん。
遠い?」
「ここからだと電車で1時間くらいかな」
リンが早速スマホで調べていた。
「おっ。
入場料結構安いよ。
色々あるみたい。
ここにする?」
「賛成」
「それでは早速」
みんなが動き出す。
やっぱりみんな凄いな。
レイナにしてみれば、個人が自分の意思で何でも出来ること自体が驚異的だった。
ミルガンテでは誰かの指示なしでは誰も動かなかった。
こっちの世界の人は、それだけ個人の力が重視されているのだろう。
頑張ろう。




