56.それはまたハードな
リンは一人っ子だそうだ。
親はやっぱり自由にやんなさい、という方針らしくて、この歳になって夜間中学に通っていることについても何も言わないらしい。
「前に聞いたんだけど、私の親自身が相当凄い青春を過ごしたらしくてね。
死ななければ何やっても良いと言われてる」
何をやったんだろう。
まあ、娘が本来なら高校生の歳で夜間中学に通うことを認めている時点で相当変わっていることは判るが。
レイナの番になった。
「親とは物心つく前に引き離されて。
それからずっと一人で育った。
兄弟がいるかどうかも知らない」
嘘は言ってないし、全部本当だ。
「それはまたハードな」
「貧乏で、というわけじゃないよね」
「訳ありで」
万能の言い訳で切り抜ける。
みんなも何となく感じているようで突っ込みはなかった。
「レスリーは?」
「……そうですね。
兄弟姉妹はいます。
でも親の都合であちこち移り住んでいて、それを嫌がると寄宿舎に放り込まれるのであまり接触はないかと」
そんな感じはした。
一人っ子の雰囲気はないのだが、かといって近い肉親がいるようにも見えない。
独立独歩というか。
「寄宿舎って、イギリスだとハロウ校とか?」
「兄の一人が通っています。
長兄はイートン校を出て今はケンブリッジに」
やっぱり上流階級だった。
「貴族なの?」
「いえ、一般市民ですよ。
昔なら紳士階級とは呼ばれたと思いますが」
アニメに出てきたような。
確か郷士というか、貴族じゃないんだけどお金持ちだったり地主だったりするのよね。
「家にはメイドさんっている?」
リンが聞きたかったことを聞いてくれた。
「メイドは職業ですから、そういう人はいますが、別にアニメに出てくるような人はいません」
レスリーがそっけなく言う。
そういう話は言われ慣れているのだろう。
「はいはい、そこまで」
ナオが言ってくれて質問タイムは終わった。
それからみんなでお風呂に入った後、全員で映画を観ることにする。
もちろん、一緒に入浴したわけではなかった。
豪華ではあったがそれほど大きな湯船はなくて、一人ずつ入れ替わりに入っただけだ。
幸いにして長風呂の人はいなかった。
レイナが最後に入浴してからリビングに戻ると、いつの間にかコークのペットボトルと大量のポップコーンが用意されていて、みんなで摘まみながら議論していた。
困ったことに全員、趣味が違った。
「ここはやはりホラーでしょう」
「コメディだって」
「SF」
「冒険活劇が観たい」
バラバラだ。
全員がレイナの方を向いて言った。
「「「「で?」」」」
「私が決めていいの?」
「ここまでまとまらないんだからしょうがない」
「駄目だったら寝ればいいんだし」
「チャッチャッと決めちゃって」
レイナは頷いてリモコンを手にした。
「有料チャンネルは何が観られる?」
「一応、メジャーなものは全部。
モデルルームなので」
「そう」
適当に選んで目を瞑ってボタンを押すと、放映中の映画が映った。
「これって」
「古い映画の方は見たことあるけど」
「初めて観た」
「いいんじゃない?」
画面では胸から上と太ももが剥き出しになった変な鎧を着けた女性が大活躍していた。
空を飛んだり電光を放ったりしている。
「何これ?」
「○ンダーウーマンね。
新しい方だけど」
「古いのもあるの?」
「あるよ」
「ではこれで」




