51.飲み物くらいは用意出来ますが
「でしたら、私の家はどうでしょうか」
レスリーが言い出した。
「リビングは広いですし、人数分の客用布団も用意出来ます。
お近づきの印に是非」
怪しい。
いくら友達だからってそこまでする?
まるでラブコメアニメのようだ。
「そうするとして、ハモンドさんのご両親は了承されているのかしら」
冷静なナオが突っ込んだがレスリーは自信満々だった。
「多分大丈夫だと思います。
聞いてみます」
さようで。
休み時間は短いのでそこで話を打ち切る。
次の日、夜間中学の終了後にファミレスに集まって検討会を開いた。
同級生の4人に加えてナオも参加してくれた。
「大丈夫なの?」
もう夜も結構遅いのに。
「これが終わったら出勤する」
クラブって完全に夜のお仕事らしい。
それにナオはクラブの従業員というよりは個人事業主に近いらしくて籍を置いているだけだから出勤時間は自分で決められるとか。
お腹が空いてきたのでみんなで軽食とドリンクバーを頼んで議論する。
レスリーが言うには問題なくお部屋を貸して貰えるそうだ。
ただし食事は出ないので、みんなで持ち寄る必要があるという。
「飲み物くらいは用意出来ますが」
「いいんじゃない?
正式なディナーとかじゃないんだから、適当に買って持ち込めば」
「ピザとか注文出来るよね」
「出前は止めておきましょう。
高いし」
そうだった。
レイナの感覚では安いのだが、バイト掛け持ちの人もいる。
なるべく安くあげるにこしたことはない。
こういうのはラブコメアニメには出て見ない大人の事情だな、と納得する。
それでも夜間中学に通う娘の友達が大量に泊まりに来るといわれてあっさり承知する親って珍しいのでは。
そもそも普通の家にはそんな合宿みたいなことが出来る程大きな部屋はなかろう。
普通の家なら。
「あ、それから両親は一緒に住んでいないので気を遣うこともないですよ」
レスリーが爆弾を落とした。
「いない?
なぜ?」
「日本にいませんので」
あっさり言われてしまった。
まさかのアニメ設定だった。
元々のレスリーの実家は欧州にあるのだそうだ。
両親の仕事は世界中が相手だが本拠地としては英国になるらしい。
世界中に不動産を所有していて、そのいくらかは投資用なので普通は空いている。
今はレスリーが日本滞在中に使っているだけで、本来は賃貸ししているとか。
「……ひょっとしてレスリーの家ってタワマン?」
「そうですよ」
やっぱり大金持ちだった。
「何でそんな富豪の娘が夜間中学に通っているの?」
リンがもっともな事を聞くとレスリーは肩を竦めた。
「普通の学校に行くと昼間は拘束されるじゃないですか。
それに不必要な勉強を強要されますし、人間関係も面倒なので」
「だったら学校なんか行かなくても」
「日本の公的な教育機関の学生という立場は凄く旨味があるんですよ。
例えば滞在許可。
留学生資格ならアルバイトは制限されますけれど、それ以外は自由ですし」
お嬢様のレスリーにバイトは不要か。
しかも夜間中学に通うのなら昼間はまるごと自由だ。
理屈は判るが無理がある気がする。
でも誰も何も言わない。
「判る」
サリも似たような事情だったっけ。
ていうかサリはもっと複雑か。
少なくとも留学生じゃなかった。
でなければあれほどのバイト三昧が出来るはずがない。
「そういえばハモンドさんの国籍ってどこの国なの?」
「英国です」
さいですか。
やっぱり貴族なの? と聞きかけて自重する。
世の中には触れない方がいい、というよりは触れてはいけないとか触れたらヤバい、ということもある。
ここにいる全員が何らかの訳ありだから、そこら辺の機敏は心得ている。




