48.私が邪魔?
そこでふと気づいた。
「リンたちは割とすんなりと私に話しかけてきたよね?
気後れとかしてなかったし」
「ああ、こっちにはナオがいたから。
あの人は接客のプロだし、普段からお相手しているのは上流階級ばっかりだしね。
時々、外国の貴族やアラブの王族とかも来たりすることがあるらしいよ」
何気に凄い人だった。
そんな人が夜間中学に通っているって一周回って納得できなくもないか。
少なくとも普通の高校にいるよりは納得出来そうな。
「だからさ、ナオやサリも誘おうよ。
よく考えたら私達ってあんまり一緒に遊んだことなかったし」
「そういえばそうね」
理由は簡単。
みんな忙しかったから。
ナオやサリは働いていて、休みはあるけど他の人と重なることは滅多にない。
特にナオは生活のリズム自体が一般人とかけ離れている。
夜中から仕事を始めて終わるのは明け方になることもあるし、帰宅して寝て起きたらもう午後だ。
サリの場合はバイトをいくつも掛け持ちしているらしく、やはり他の人と自由な時間帯が合わない。
リンは一応自由と言えるが親からのプレッシャーが酷くて遊び回るのはハードルが高い。
そういう意味では一番余裕があるのはレイナだ。
一応はシンの分も含めて家事をやっているけど、そんなのは1日に数時間で片付いてしまう。
あとは夜間中学に行く以外に用事がないから社会見学と称して毎日色々な場所を彷徨き回っているだけだ。
そしてスカウトに声を掛けられて名刺を貰って帰宅する。
そんな生活にもそろそろ飽き始めていたところで、確かに自分の視野を広げてみるのもいいかもしれない。
リンが連絡をとったところ、ナオやサリも賛成して次の日曜日にみんなで遊びに行くことになった。
夕食の席でシンに言ったら「いいんじゃない」と投げやりに賛成された。
「レイナの好きにしていいよ。
ていうかそろそろ独立して欲しいかな」
「え」
何と。
レイナが邪魔になったというのか。
ひょっとしてシンにも番が出来たとか?
「違う違う。
保護者とはいえこんなおじさんと同居していたら色々と問題でしょ?
対外的に。
レイナももっと自由にやりたいだろうし」
いえ、全然そんなことはないですが。
「私が邪魔?」
「そんなことはないよ。
家事やってくれてるだけで助かっているし。
でも、これから僕も新しい生活が本格的に始まるし、レイナもそろそろ生活のステージを変えてもいいんじゃないかと」
つまりは独り立ちしろということか。
確かに今のレイナはシンに依存していて、自分でも何をやりたいのか判らない状態だ。
居心地がいいので安住してしまっているけど、その状態が一生続くはずがない。
「そう言われて見ればそうかも」
「まあ、レイナの歳だと独り立ちってまだ早いんだけどね。
でもレイナは特殊だから」
レイナの年齢は現在16歳ということになっている。
日本国籍を取得するときにそういうデータが必要で、色々とシンに相談して決めた。
実際にはいつ生まれたのか、ミルガンテでどれくらい過ごしたのか判らないから適当だ。
自分の誕生日も知らないし、そもそも異世界に来てしまった時点で無意味だろう。
なぜ16歳なのかというと、15歳以下には見えないし18歳以上は成人になってしまうから。
未成年の立場が都合が良かったという理由だ。
「普通はどうなの?」
聞いてみた。
アニメだと主人公が高校に入学した時点で大きな家に一人暮らし設定とかよくある。
両親が一緒に海外赴任してしまったとか、複雑な家庭の事情とか。
でもそういうのが一般的だとはさすがのレイナも思わない。
だってアニメだし。
「日本だと18歳くらいまでは両親と暮らすことがほとんどだと思うよ。
その後は大学行ったり就職したりして家を出たりするけど、まあ色々かな」
「なるほど」
「レイナの場合、表面的に観たら血縁関係じゃないおじさんと一緒に住んでいるから、事情を説明するのも面倒でしょ。
だから形式的にも一人暮らしをした方がいいかと」
僕の方も面倒くさい説明をする手間が省けるし、とシン。
それはそうかもしれない。アラサーの独身男が外国人の異性の未成年者と一緒に生活しているって、少なくとも日本では噂を呼びそう。




