47.ありがとうございます!
「判りました。
では私はハモンドで」
言いにくいけど自分から言い出した以上、しょうがない。
「それでハモンドさん。
どんなご用?」
悪意に取られても仕方が無い言葉で聞く。
それで怒ったらそれまでのことだ。
「はい。
明智さんとお友達になりたくて」
何だよそれ。
友達ってなりたくてなるものだっただろうか。
確かアニメでは告白されて断るときに、角がたたないように「とりあえず友達から」と返すのが礼儀だったような?
アニメじゃないんだから違うと思うけど。
「なぜですか?」
「明智さんって、何かこう、尊いというか恐れ多いというか、崇拝出来そうなので。
本当は下僕とか隷とかがいいのですが、いきなりそれでは引かれると思って」
いや、今の台詞で十分引いたけど。
こういう場合はどう返せばいいんだろう。
アニメやライトノベルじゃあるまいし下僕だの隷だの言い出す人とは付き合いたくない。
お姉様とか言われるよりはマシか。
アニメで観たお嬢様学校の訳が判らない制度を思い出してしまった。
「下僕とかは困る」
「はい。
ですからまずお友達と」
断りかけてふと横を見たら、いつの間にかリンがニヤニヤしながらこっちを観ている。
助けてよ!
「ま、あれだね。
とりあえずお話してみたら。
友達になれるかどうかはその結果次第ということで」
意外にも有益な助言をくれるリン。
先延ばしにしかならないが、この場ではまともな対応だ。
「判った。
ではまず知り合いということで。
どっちにしても同級生だけど」
「ありがとうございます!」
喜ぶハモンドさん。
同級生じゃなくて友達になりたい、という歌詞の歌があったっけ。
あれはアニメの主題歌というかOPだった。
レイナの場合、日本に来てからの人生経験がないも同然なので、ついアニメで理解してしまうんだけど。
「それでは明智さん。
早速、どこかに遊びに行きませんか。
隣塚さんも一緒に」
隣塚って誰だったかと一瞬思ってしまった。
リンってそういう名字だったっけ。
そういえばナオやサリの家名もあやふやだ。
私って淡泊?
「いいね。
今度の休みにでも。
レイナもいい?」
「……判った」
何かもう、反抗するのも面倒になって言ってしまった。
「それでは」
ハモンドさんが去った。
用事ってそれだけだったらしい。
「いや、モテますね」
リンがからかってくる。
「モテたくない」
「まあまあ。
日本社会に馴染むためにもある程度は知り合いの輪を広げた方がいいよ。
嫌だったら絶縁すればいいんだし」
リンもなかなか酷い事を言う。
それにしても友達か。
リンたちとはもう友達だと思っているけど、どうしてそうなったのか覚えていない。
「でも何で私なんかと友達になりたいと思うの?」
つい言ってしまったらリンがすぐに返してきた。
「本気で言ってる?
レイナって坐っているだけでギラギラするというか圧倒的な気配を発しているんだよ?
それだけじゃなしに、どうみても上流階級の礼儀を実践しているし。
なまじの覚悟じゃあ、友達どころか声を掛けるのすら難しいよ」
そういえば前にシンに言われたっけ。
レイナは大聖殿で叩き込まれた聖女としての姿勢が身に染みついていて、こっちの世界では貴族にしか見えないと。
ひょっとしたら王族かもとまで言っていた。
聖女ってそこまで要求されていたのか。
今更ながら逃げられて良かったと安堵するレイナだった。




