39.気づいてたの?
もちろんどこにでも勇者はいるもので、何度も誘われたが主にリンが頑として拒否した。
レイナとしてもよく知らない男たちと一緒にカラオケやゲームセンターとかに行きたいとは思わなかった。
クリスマスパーティやハロウィンとかも無理。
単に人見知りというだけではなく、聖力の暴発が怖い。
最初の頃は常に警戒していなければならなかった。
それでも体育の授業では何度か失敗したし、目の前で誰かが事故にでも遭ったら手を出さずにいられるかどうか自信がない。
なので、出来ればあまり親しい人を増やしたくない。
万一の時に助けてしまうから。
シンにも言われたけど、自分に直接関係ない事については手を出さないと決めている。
やり始めたらきりがない。
例えばレイナなら、どんな大怪我でも治してしまえる。
失った手足の再生すら可能だ。
何せレイナは自分自身を創造してしまったくらいで。
事件どころかひょっとしたら戦争を止めることすら可能かもしれない。
だが、一度でもそれをやってしまったらレイナも世界も破滅まで一直線だ。
聖力とはそれほど凄まじい力なのだとシンが力説し、レイナも頷いた。
聖女教育でも繰り返し叩き込まれた。
個人優先たれ、と。
「もっとも、実を言えば隠し通せるとも思えないんだけどね」
シンが苦笑いした。
「そうなの?」
「いずれはどうしようもなくなってバレる日がくると思う。
無理を重ねて隠していたらレイナの精神の方が壊れてしまうだろう。
だから絶対に駄目だとか思わないで、自分で境界を決めて動くようにしたら」
なるほど。
確かにギチギチに隠し通そうとしても無理が来ることは目に見えている。
それくらいだったら適当にガス抜きするべきか。
「レイナ、今でもやってるでしょ。
深夜の特訓」
「気づいてたの?」
「まあね。
あれは良いことだよ。
隠すにしても自分の限界を把握しとく必要があるし」
抜け目のない人だ。
レイナも頭からシンを信用していたわけではない。
言わば巻き込まれただけで、聖女の世話をする必要なんか本当はないはずだ。
シンによれば、ほっといたらレイナがいずれ暴発して自分に影響が出そうだということだったけど、それでもここまで親身になってくれる理由にはならないだろう。
自分に興味というか野心があるのかと考えてみたけど、どうもしっくりこない。
レイナの聖力を利用すれば、それこそ世界征服も可能かもしれないのだが。
ナンバーズの数字合わせに使われたくらいで、後はほっとかれている。
レイナの交友関係にも口を出してこないし、何か頼めば快く望みをかなえてくれる。
理想的な保護者なんだけど。
「不思議なんだけど、なぜシンは私の行動に口出ししてこないの?」
聞いてみた。
「どういうこと?」
「躾とか」
「レイナって礼儀面では完璧でしょ。
さすがは聖女」
「無理がある。
私、日本のことはまだほとんど知らないし」
するとシンは破顔した。
「やっぱり気づいた?
うん、僕の枠に嵌めるのは間違っていると思ってね。
レイナはもともと制御不能だし」
「制御不能って」
「聖力を使える者に強制なんか出来ないんだよ。
増してレイナは桁違いでしょ。
本人の性質を変えられないとしたら余計な口出ししても無意味だから」
シンによれば無手勝流だそうだ。
部外者がどんなに頑張っても究極的には聖女は好きな様に動く。
それを止めることは出来ない。
だったら最初からあるがままに任せて様子をみることにしたのだという。
「無責任?」
「そうだね。
でもレイナって自制心が強いし割と温厚でしょ。
変な野心もないし」
「それはそうなんだけど」
「逆に何か不快なことがあったら是正する方向に行きかねないから、僕としてはレイナの周りの環境を整えて、あとはなるがままということで」
シンは時々理解出来ない言葉を使う。
もっと勉強しなければ。
それはともかく了解した。
これからもレイナの自由にしていいらしい。
「もちろん本当にヤバそうなら警告するよ。
でも従うかどうかはレイナ次第ということで」




