37.どういう関係なの?
夜間中学の仲間達に相談したら言われた。
「何を贅沢言ってるのよ」
「世の中にはお金がなくて進学出来ない人がたくさんいるのよ」
「シンさんに大感謝しなさい」
そう言われてもね。
ちなみに既に数回、仲間を自宅に誘い済みだ。
シンに聞いたら「ご自由に」ということだったので、休みの日に招待した。
三人はコンシェルジェ付きのマンションにちょっとビビったみたいだった。
シンは訪問した三人と挨拶してすぐに出かけてしまった。
「シンさんって日本人なのね」
「同郷の人って聞いていたけど」
どうも保護者も外国人だと思われていたらしい。
「それは本当。
私の故郷には色々な人がいた」
ミルガンテは国だが、大聖殿には世界中から聖力持ちが集まってきていた。
当然、肌の色や髪の毛、体格、顔立ちはまちまちで、特に差別もなかった。
判断基準が聖力だから、それ以外の特徴は些細だ。
「どういう関係なの?」
どうなんだろう。
「保護者ということになっている」
「なっているって」
「後見人かな」
シンは日本で生まれて育った日本国籍を持つ純正の日本人だ。
きちんと学校を出て名の知れた企業の正社員として長年働いた実績がある。
得体の知れない不法入国者(としか言えない)レイナの身元保証人としては十分だが。
同郷の者、という言い訳は実のところ役所には言っていない。
関係者というところだろう。
「そういえばシンさんって何をしてるの?」
レイナの部屋に集まってみんなでお茶菓子を食べながら話していたらリンがふと聞いてきた。
「さあ?」
「知らないの?」
「ちょっと前まではサラリーマンだったみたいだけど、辞めて起業したとか聞いた。
何の仕事なのかは知らない」
シンが説明してくれようとしたけど、レイナにはよく判らなかった。
投資とか株取引とか。
シンの前世の記憶から何を売り買いすれば儲かるのか判っているので簡単だそうだ。
「あまり人の事を探るのは良くないわよ」
ナオが窘めてくれた。
クラブのホステスなんだから、そっちの危機管理はしっかりしている。
「ね。
レイナってシンさんの何なの?」
リンはめげない。
それこそプライバシーではないのか。
「同居人かな」
「あっちの方は」
「よしなさい」
「えー?
気になるじゃない。
こんなマンションに住めてレイナを養っていけているお金持ちだよ?
ちょっとおじさんだけど」
「レイナがいるのにチャンスなんかあるわけないでしょ」
よく判らないがシンが人気なのは判った。
困る。
「シンは私の保護者だから」
「レイナはいいのよ。
娘みたいなものでしょ。
パートナーじゃない」
「だから無理だって」
みんなの考えていることがよく判らないが、どうもサリは半ば本気のようだ。
リンは好奇心だけみたいだが、ナオはよく判らない。
色々な人がいるなあ。
いつの間にか暖かくなって、4月になると新年度ということでレイナは中学2年生になった。
あまり意味はないのだが、夜間中学にも学年はある。
レイナは途中編入だし学力から言って最底辺からのスタートだったから1年生から始めた。
なので今年度は2年生らしい。
「卒業しようと思えば出来るよ」
リンが教えてくれた。
「引きこもりで不登校でも3年在籍したことになっていれば特例で卒業資格をくれる。
正確に言うと追い出されるんだけど」
「そうなの?」
「学校側もそんな生産性のない虚しい生徒をいつまでも飼っておきたくないからね。
文盲でも中卒にはなれると聞いている」
そうなのか。
「逆に言えば、本人が希望すれば3年間は在籍出来るってこと」
サリが肩を竦めた。
「在籍したいの?」
「もちろん。
公的な学校の生徒の身分って便利なのよ。
生徒手帳が身分証明になるし、色々と学割が効いたりして」




