35.やらないの?
そろそろ冬、ということでレイナもコートを着ている。
例によってオシャレなお店で店員にお任せしたら、何だかファッション雑誌に載っていそうな装いになってしまった。
お値段はカードで払ったから知らない。
「それ、凄い値段だと思う」
リンが呆れたように言った。
夜間中学の1時限終了後の給食をみんなで食べているところだ。
コートは脱いでいて、原色のワンピース姿のレイナはきょとんとして応えた。
「そうなの?」
「私もよく知らないけど有名なメーカーの新作じゃない?
雑誌でモデルが着ていたような」
「レイナ自身がモデルやった方が見栄えがするかもしれないね」
サリがからかうように言った。
「でもそうしたら一般人には無縁なイメージになってしまうから駄目か」
「そうね。
プレタポルテじゃなくてオートクチュールに見えてしまうかも」
ナオが真面目に言う。
一流のホステスがそう言うんだからそうなのかもしれない。
「そうかな。
店員さんにお任せしたから」
「いいカモ……じゃなくて上得意にされていない?」
「判らない。
カードで払っているから」
「あー。
もういい判った。
レイナって大金持ちだった」
「でもそれ、レイナだから似合うよね。
私らが着たら下手なコスプレみたいに見えそう」
リンとサリは早々に手を上げた。
ナオなら似合うかもしれないがイメージが違う。
「でもレイナ、大丈夫?
そんな格好で歩いていたらスカウトとかされない?」
「される。
毎回断っている」
最近ではレイナもすっかり日本に慣れて、日中は気が向くままあっちこっちに出かけている。
車の運転は出来ないし自転車やオートバイも無理なのでお出かけは徒歩と、おっかなびっくりだけどちょっとだけ電車だ。
そしてある程度賑やかな場所に行くとほぼ確実に声をかけられる。
「ナンパ?」
「えーと、それはない。
何かすぐに名刺出してくるから」
「ああ、タレント事務所とかプロダクションとかね」
「うん。
モデルやらないかって」
ほぼ全部、それだった。
白い肌、整った小顔、均整のとれたスレンダーな身体、細くて長い手足、そして何より白銀の長い髪がスカウトを引きつけるらしい。
「やらないの?」
「興味ない。
あんまり人目につきたくないし」
「いや、それほど目立つ格好していてそれは無理でしょ」
そう言われて敢えてジーパンにスニーカー、暗色のセーターとかを着てみたこともあったのだが、スカウトは変わらなかった。
そういう需要もあるらしい。
「まあ、レイナなら何着てても読モくらいなら余裕で通用するだろうし」
「本職のモデルは身長制限があるから無理でしょ。
むしろレイナだったらアイドルとか」
言われてしまった。
「無理。
私、オンチだし」
「口パクでいいんじゃない?
レイナって動くのは得意でしょ」
「ああ、あれは凄かったよね」
ナオが頷いた。
体育の授業でバスケットボールとやらをやったのだが、つい調子に乗ってダンクシュートを決めてしまった。
無意識に聖力を使ったらしくてちょっとあり得ないくらいの高さまでジャンプしたり、ゴールの反対側の端からダイレクトシュートしたりして。
あれはヤバかった。
「ホントに有望なスポーツ選手とかじゃなかったの?」
「違う」
「それは無理でしょ。
これだけの容姿で競技に出たら絶対に有名になってるし」
そういう人もいることは知っている。
この国、というよりはこの世界では色々な非殺傷闘争というか競技が盛んで、強い選手は名が知れたりファンがいたりするそうだ。
テレビや雑誌に載ることもあるらしい。
リンが持ってきた雑誌を見せて貰ったが、確かに色々な競技の選手が写真付きで紹介されていた。
特に女性選手は容貌が優れた人が多いようだ。




