幕間1
田淵巡査は突然、異様な気配を感じて自転車を停めた。
何か胸騒ぎがする。
これから凄い事が起こりそうな、そんな気配だ。
警察官としてそういう感覚は大事にするようにと先輩から教えられていた。
第六感というか、結構厨二病かぶれの万年巡査長の先輩だったが、経験だけは積んでいるので警官としてそれなりに有能ではある。
「いいか田淵。
人間は意識するより以上に周囲の情報を取り込んでいるものだ。
何か変な気分になったらそれは無意識が何かに気づいた結果なんだよ」
その後は左手に封印された何とかが、とか言い出したのでスルーしたのだが、言われたことはよく判る。
今は交番勤務だが、いずれは署の刑事課に入りたいと思っているのだ。
刑事の勘というものは本当にあると聞いている。
目を閉じて気配を探ってみると、左の方向に強い何かを感じる。
万一のために自転車には乗らず、押しながら進むと公園があった。
あまり広くない。
遊具も滑り台とかブランコとかがあるだけだ。
ここで何が?
見回してみたが誰もいない。
時計を観たら午後8時を過ぎている。
もう一度目を閉じて気配を探ってみたが、もう異様な感覚はなくなっていた。
ここで何かがあったとしても、それはもう去ったようだ。
何もないのなら警官として出来ることはない。
だがあの異様な気配は何だったのだろう。
日報には書けないが、個人的な日記には記載しておくべきだろう。
後で何が原因だったのか判るかもしれない。
田淵は頭の中にメモして警邏に戻った。