377.お前も気づいたか
アルバートはため息をついて車を発進させた。
レスリーがスマホで調べると、数分走った所に巨大な駐車場があることが判った。
行ってみたら観光バスがずらりと並んでいる。
「観光客もここから歩かされるようだな」
「でしょうね。
それはそれでツアーの一部ということになっているのかも」
そういえばウィンザー城に行ったときも歩かされたなあ。
お城の近くにも駐車場があったのに。
「今回は違います。
本当に駐車場が狭くて」
「いいから」
もともと聖力持ちであるレイナはちょっとした運動くらい何とも思っていない。
聖力抜きでは大変だが、レイナの聖力はほぼ自動的に作用するので意識しない限りレイナをサポートしてくれる。
やりすぎてすぐにオリンピック級の記録が出てしまうのが問題だが。
「行くぞ」
アルバートが指揮をとることに依存はなかった。
何といってもレイナは外国人の小娘で、しかも常識に疎い。
誰かにサポートして貰わないと安心出来ない。
歩き出してしばらくすると、同じ方向に向かっている人たちと合流した。
みんな観光客みたい。
「レイナ様。
スリが混じってます」
「お前も気づいたか」
「割と治安が悪かったり民意が低い土地で暮らしてきたので慣れてるんです」
アルバートとレスリーが言い合っていた。
レイナは何も感じなかったので聞いてみた。
「スリがいるの?」
聖力も反応していない。
「いますね。
誰だか判りませんが」
「特定出来なくてもいることは判るんだ」
するとアルバートがのんびり歩きながら言った。
「何というか意志の空白、とでもいうのかな。
普通の泥棒だったら目標を狙うときにそういう意志が感じられるんだが。
スリの名人になるとそれがなくなる。
なのに観光に期待しているわけでもない」
アルバートって何者なんだろう。
軍人じゃなくて刑事だったとか?
いや憲兵か。
「そういう仕事してたの?」
「いや。
海兵隊は正面突破より迂回したり浸透したりする方が得意だからな。
いかにも『殺ってやるぞ』というような意識を剥き出しにするのは拙い」
「しないの?」
「ああ。
その意志は隠すというか、何も考えないようにして動く」
よく判らない。
何も考えてなかったら動けないのでは。
「あれですよ。
スポーツとかダンスとか、身体を動かす競技ではトップクラスになると、演技中は何も考えなくなるそうです。
身体が自動的に動くようになるまで繰り返し練習して」
「そういえばそういう話を読んだ事があるような」
漫画だったか。
ダンスのステップを途中でど忘れてして立ち尽くす主人公。
それ以来、失敗することが怖くて上手く踊れなくなった主人公に同僚がアドバイスするのだ。
ダンスというものは飽きるくらい反復練習して身体に叩き込むものだと。
そうすれば何も考えなくても身体が勝手に動いてくれると。
「でもそれがスリと何の関係が?」
「スリも名人になると『スッてやる』と思わなくても身体や指が自動的に動くらしいです。
そうなるまで訓練するとか。
むしろ意識すると警戒されるから……ほら」
いつの間にかレスリーがレイナの隣にいた。
レイナたちよりいくつか年下に見える少年がレスリーを避けて通り過ぎる。
「Desole!」
ちょっと言い捨て気味な口調だった。
「?」
「上手いな。
どこで覚えた?」
「マレーシアで。
あそこの雑踏に行くとしょっちゅうですから」




