376.でも絶景でしょ
それにしてもどっしりとした存在感が凄い。
高い建物や塔と違って円錐形なのも大きい。
何かに似ていると思ったら富士山だった。
まるで山だ。
「岩山の斜面に建物が建っているようなものですから。
全体がお城というわけでは」
でも形だけ見れば確かにアニメのラピュタに見えない事も無い。
木は生えてないけど。
ワゴンがカーブを曲がるとモン・サン・ミッシェルは見えなくなった。
何かワクワクしてきたりして。
「観光は実際には結構大変だと書いてあります」
レスリーがスマホを見ながら言った。
「何が?」
「あれって普通の建物じゃなくて山ですから。
基本、上り坂と下り坂しかないし斜面は急で道が狭くて。
もちろんエレベーターとかないので全部歩きです」
「ああ、確かに」
「高齢の方は途中で断念して引き返すことも多いらしくて。
そもそもあまり見るべきものもないそうです。
建物自体が観光地であって、何か珍しいものがあるわけじゃないですから」
それは贅沢というものではないのか。
富士山に登ったのに何もなかったと言っているようなものだ。
「でも絶景でしょ」
「外から観たらそうですけど、内側から見たら周りは単なる海ですよ」
身も蓋もないなあ。
まあいい。
別に聖地を期待していたわけでもないし、そもそもレイナはこういった建造物には慣れているのだ。
何せミルガンテでは似たような巨大建築物に住んでいたんだし。
「そろそろ着くぞ。
用意はいいか」
アルバートに言われてチェックする。
服は着替えようがないけど、コートのポケットに必要物が入っているかどうかは確かめないと。
バッグは肩掛け紐がついているものを持ってきた。
パスポートとスマホがあれば十分。
「スリやかっぱらいも多いそうです。
レイナ様も気をつけて下さい」
言われてしまった。
そういう意味では平和ボケしている自覚があるレイナだった。
ミルガンテでは常に周りに人がいたし、そもそもすられるようなものを持ってなかった。
お金を払って何か買ったこともない。
日本に来てからも現金はほとんど使わなかったし、そもそもよく財布を忘れた。
スマホばっかりだ。
「大丈夫」
いざとなったら聖力で現実を改変すればいい。
楽な方に逃げるレイナだった。
ワゴンはいつの間にか海沿いの街に入って、それなりに混んでいる通りを進んでいた。
アルバートがイライラしながら運転している。
「どうしたの?」
「道路情報が古いせいか変な道ばかり指示するんだよ。
この先に駐車場があるはずなんだが」
カーナビというものね。
予め行きたい場所を指示すると道案内してくれる機械だ。
聖力がないと文明は発達するにも程がある。
「大丈夫?」
「いや……道路地図が懐かしいぜ」
悪戦苦闘中のアルバートだった。
それでもワゴンは何とかモン・サン・ミッシェルの近くまでたどり着いた。
近くに見えるけどまだ遠そうだ。
レスリーがスマホで何か調べていたが、アルバートにペラペラと話しかけた。
早口の英語は判らない。
「何?」
「このまま橋を渡ってもいいんですが、駐車場がいっぱいで待たされるらしいです。
この近くに車を停めて歩いて渡った方が早いそうです」
どうします? とこっちを観てくるレスリー。
アルバートは沈黙していた。
面倒くさいなあ。
「いいよ。
歩こう」
「大丈夫か?
遮蔽物がないところを歩いても」
「ガードして」




