337.今のが有名なロンドン橋です
「よし。
最初はロンドン橋だ」
アルバートが言った。
なぜかレスリーが吹き出した。
「いきなりそれですか」
「面白いだろ」
訳が判らない。
「何なの」
「『ロンドン橋』っていう童謡があるんですよ。
別にその橋に問題があるわけじゃないんですが、歌詞が『ロンドン橋落ちた』というもので」
何それ。
危ない橋なの?
「別に橋が落ちて誰か死んだというわけじゃない。
童謡だからな。
橋が落ちたからあっちこっちから色々な材料を集めて作ろうという話だ」
アルバートがからかうように言った。
「有名な歌なんですよ。
世界中で知られています」
「いや、ちょっと待って。
そもそも童謡って何?」
そこから判らない。
レイナは常識に無知なのだ。
ましてや英国だ。
「マザーグースという伝承歌があるんだが、そういうものの総称ということになっているようだな。
正式な歌というよりは子守が寝室で子供に歌いかけるようなものというか」
「地方によって色々な呼び方があります。
元々は英国の地方の伝統みたいなものだっそうですが、大航海時代の植民地政策によって世界中に広まりました」
待て待て。
新しい知識をポンポン出してきても判らん。
「大航海時代って?
植民地は判るけど」
聞いたらあちゃー、という顔をされた。
「そこら辺は後でスマホで調べて下さい。
とにかくそういう有名な歌があるんですが、そのせいもあって本来は何の関係もないはずの橋が有名になってしまって」
「ロンドンの観光名所のひとつだ。
別に普通の橋なんだが」
さようで。
よく判らないけどまあいいや。
そしてレイナはロンドン橋を観光した。
ロールスの後部座席に乗って通り過ぎただけだったが。
「今のが有名なロンドン橋です」
レスリーが笑いを堪えながら言った。
「何それ?
ネタ?」
「そんなもんだ。
実際に見てみたらガッカリだが見損ねると後で後悔するという例だ」
冗談なんだろうか。
「さて、次行くぞ」
ということでレイナはロンドン中を引き回された。
橋つながりでタワーブリッジとやらに連れて行かれたけど、中に博物館があって面白かった。
バッキンガム宮殿とかセント・ポール大聖堂とかは外見が凄かったけど、観光客でいっぱいだったので通り過ぎただけだった。
「いちいち見て回ったらあっという間に日が暮れます」
「別にいいのに」
「初日ですから後で」
何か予定があるらしい。
大時計を見た時は興奮して「あれが『時計塔』なの?」と聞いてレスリーに冷たい目で見られた。
ウェストミンスター宮殿とやらの一部で、今は国会議事堂になっているそうだ。
「見学出来ますが」
「今はいい」
何で政府の建物を見なければならないのか。
まあお城なんか露骨に公共物くさいけど。




