幕間6
近藤道夫は仲間とダベリながらカラオケに向かっていた。
まだ高校2年、受験のことは気にはなるが何とかなるだろうと楽観している。
同級生たちも似たようなもので、一応は進学校である道夫たちの高校の卒業生はほぼ全員がどこかの大学か専門学校に進学する。
エリートでも落ちこぼれでもない道夫たちの人生は中庸を行くことが決まっていて気楽なものだ。
「そういえば知ってるか」
同級生の田端が言った。
今では珍しくも無いちょっとヲタクがかったサブカルいやアニメやライトノベル好きのインドア派だ。
「この辺りで謎の美少女エスパーが自主訓練しているという噂がある」
「何だそりゃ」
「都市伝説にしても痛くね?」
「ていうか美少女はいいとして今時エスパーって古くね?」
戯れ言だと思っているが、ここは乗っておく。
「あ、俺知ってる」
大森が言い出した。
「でもエスパーじゃなくて極真空手の達人じゃなかった?
手刀や蹴りで岩を砕くとか聞いたけど」
「何だそりゃ。
50年くらい前の漫画か」
「やっぱ山に籠もって修行するって?
眉毛剃ったりして」
「ウケる」
全員の脳裏に空手着を纏った眉毛の無いツインテールの美少女の影が走った。
もちろん胸はでかい。
「僕の聞いたところだと幽霊が出るって。
やっぱり美少女だけど。
何か現れたり消えたりするらしくて」
気の弱い児玉が口を挟んできた。
オカルト系サブカルに被れたヲタクだが、本人は身長180センチ体重120キロの巨漢である。
顔も某国際的なスナイパー劇画に出てくる悪役みたいなのでイジメには遭ってない。
というかこいつと一緒に居るとチンピラに因縁つけられることもないので重宝している。
「今度は幽霊かよ」
「エスパーだって」
「むしろ呪術使いとか?」
「影から日本の平和を守る組織のA級工作員とか?」
みんな好きなことを言い出したが田端は頑固に続けた。
「エスパーだよ。
幽霊とか工作員とかじゃない。
もちろん空手家でもない。
その美少女はごく普通のワンピースとかを着ているそうだ。
それでいて超人的な能力を」
田端が急に言葉を切ってぎくっと立ち止まった。
つられて全員が田端に習う。
小さな公園の前だった。
ちょうど日没時で、青さを増していく空の淡い光に照らされて神秘的な美少女が立っていた。
白銀の長い髪に整いすぎた小顔。
真っ白な肌に細くて長い手足は明らかに日本人ではない。
にも関わらずごく普通のセーターに膝下のスカート。
その美少女は固まっている道夫たちをちら見すると、にっこりと微笑んだ。
そして消えた。
今まで確かにそこにいたはずなのに、次の瞬間には誰もいなくなっていた。
しばらくは全員が無言だった。
「で、出たーっ!」
いきなり小心な児玉がわあっと叫んでかけ出す。
道夫たちも叫びながら続く。
見てしまった。
呪われたりしないだろうな?
体育祭でもこれほどまでに真剣に走らなかったなと思いながら全力で駆ける。
しかし美少女は本当だったな。




