335.女の子の生足は無敵です
姿見の前で服装を点検しているとノックの音がした。
「準備はいいですか?」
「ちょっと待って」
最後にお花畑に行ってから部屋を出るとレスリーが立っていた。
この季節にデニムのミニスカートだ。
上は暗色のジャンパーでナップザックを背負っている。
足下はスニーカーだがハイソックス。
地味?
派手?
「何その格好」
「レイナ様のご要望に応えるための装備です。
これならどこでもついて行けますし消耗品も持参できると」
ふーん。
「寒くない?」
「女の子の生足は無敵です」
よく判らないけど覚悟は判った。
それにとても似合ってはいる。
レスリーは白人種らしく手足が細くて長いのでこういうお洒落は劇似合いだ。
それを言ったらレイナもなのだが。
「レイナ様のそばに絶対領域を晒している小娘がいれば注意を分散させられるのではないかと」
言い訳じみているけどまあいい。
「判った。
行こう」
「御意」
どこから持ってくるんだそんな台詞。
釈然としないまま出発するレイナだった。
相変わらずよく判らない経路を辿って車庫らしき広い場所に着いたレイナはずらりと並んだ自動車を見渡した。
すると音もなく進んできてレイナの前に停まった車があった。
でかい。
角張っている。
重厚だ。
「これ?」
「と思います」
レスリーも知らないらしい。
するとドアが開いて運転席から大柄な男が降りてきた。
「アルバートさん」
「お早う。
姫君のご機嫌はいかがかな」
にっこり笑うが虎が微笑んだような雰囲気だった。
でもこっちだってドラゴンだ。
「悪くない。
この車で行くの?」
「ああ。
うちの虎の子のロールスだ。
ファントムと言って007も乗った車だよ」
いや、そんなことを言われても判らないけど。
「……凄い」
レスリーは感心というよりは怯えていた。
何かあるんだろうか。
「今日はアルバートさんが運転手?」
「君に直接関わる者は少ない方がいいからな。
俺が護衛を兼ねて運転する」
さいですか。
どうでもいいけど。
レスリーと一緒に後部座席に乗り込んで並んで坐る。
車は静かに走り出した。
いつの間にか開いていたシャッターをくぐって外に出る。
屋内駐車場だったらしい。
「レイナ様、レイナ様」
レスリーが小声で言ってきた。
「何?」
「これ、ロールスロイスファントムという車種ですが、新車だと六千万円以上するみたいです」
スマホの画面を見せつけてくるレスリー。
情報が早い。
「有名なの?」
「何というか、セレブ御用達というか。
うちのグループも持っていたんですね。
誰のだろう」
まあ、それはこんなお屋敷を構えているくらいだからお金はあるだろうし。




