330.そろそろ限界なんだけど
「そうか」
レスリーはアルバートさんの前で露骨にレイナ側についてしまったからなあ。
それにしてもそれだけで村八分とは。
「いえ、そんなのではなくて」
レスリーはサバサバしていた。
「私も『お客様』扱いみたいです。
待遇もレイナ様たちほどではありませんがもこれまでとは雲泥の差で」
そういえばいつの間にかレスリーの部屋が変わっていたみたい。
レイナたちの隣とまではいかないけど、同じ階層の部屋で暮らしているという。
「食事も豪華で」
「良かったわね」
そういえばレスリーの食事は謎だ。
夜間中学にいた頃はむしろ小食に見えたし本人もそう言っていたんだけど、実は大食漢というよりはいくらでも食えるタイプだった。
それでいて太るとかはないらしい。
栄養が胸に回ったのか。
「私は巨乳というほどじゃないですよ?
まあまあといったところです」
それにしては重いとか肩が凝るとか言っていたけど。
まあいいや。
レイナはどちらかというとスレンダー型なのでそういった悩みは判らない。
大きかったとしても聖力で重量軽減くらいは出来そう。
そんな生活が数日続いた。
溜まりかねてシンに電話する。
「そろそろ限界なんだけど」
『もうちょっと待って』
シンは無情だった。
「もうちょっとってどれくらい?
今何してるの?」
『某所で打ち合わせしてる』
何ですと!
シンはとっくに退屈から解放されていたのか。
「私もまぜてよ。
退屈で死にそう」
『別にいいけど、面白くないよ?
事業の契約関係の話してるだけだから』
シンの話によれば、今後シンやレイナと組織が自然に接触するための建前というか、理由を作っているのだそうだ。
幸いにしてシンは自分の会社を持っているので組織のグループ会社との事業提携とかそういった契約を結ぶことになるらしい。
シンが英国に来た理由にもなるし、今後は何かと連絡したり渡英したりする言い訳にもなるからと。
「そうなんだ」
『僕は仕事、レイナは留学みたいな形で英国に滞在したり出来るようになるからね。
その辺を煮詰めている』
なるほど。
あれ?
「あのウェイターさんたちはどうなったの?」
『さあ。
どうでもいいというか。
レイナもそうでしょ』
そう言われてしまったら別にこだわりはない。
確かにどうでもいい話だった。
「でも」
『退屈だったらロンドン観光でもしてくれば。
レスリーさんと一緒に』
シンが意外なことを言い出した。
「いいの?」
『いいよ。
もう組織は公には手を出してくることはないし、何かあってもレイナだったら自力で何とかするでしょ』
つまり公じゃない何かがあってもおかしくないと。
別にいいけど。
でもまたテレビとかに出てしまったら。
『どうにでもなるよ。
いざとなったら組織の関連企業のモデルとかキャンペーンガールだ、とかで押し通せばいい』
アバウトなシンだった。
そうか。
レイナが知らないうちに観光が解禁されていたのか。
言ってくれればいいのに。
忘れられていたのか、あるいはレイナから文句が出ない間は放置されていた臭い。
まだまだ自分は子供だなあと思うレイナだった。




