325.では私は控えております
「それはもういい。
とにかくそういうものだということね。
つまり正義のヒーローと悪の組織の戦いがパターン化したと」
判ったつもりで言ったら否定された。
「それがですね。
21世紀になると、世の中そんなに単純じゃないとか、ヒーローにももっと人間関係があるはずだ、というような風潮が強くなりまして。
しかも悪の組織側にも色々と事情があるんじゃないかとか、ヒーローと悪の組織の女幹部の間にロマンスが」
また判らなくなってきた。
一体どこに向かおうとしているのか。
「だから別に目的とか志とかはないんですよ。
ウケれば、というよりは売れればいいんです」
身も蓋もなかった。
まあ、それは判る。
娯楽は商売だから、視聴者にウケる方向に走るのは当然だ。
いかに崇高な目標があっても売れなかったらポシャる。
「でもアメコミってワンパターンで超人ヒーローを量産しているよね」
「売れますからね。
コンテンツ自体は古いんですが、最新技術でド派手な演出して」
辛辣だなあ。
そういえばレスリーっアニメヲタクだった。
アメコミや実写はあまり好みではないのかも。
「まあいいや。
ちょっと(精神的に)お腹いっぱいになったから休みたい」
「判りました」
レスリーもやり過ぎた事に気づいたらしくて大人しく引き下がった。
用を思い出したみたいでそそくさと去る。
レイナはぐったりしてソファーに伸びた。
結構ダメージをくらってしまった。
こういうのは聖力でも直せないなあ。
シャワーを浴びてからさて何をしようかと思っているとスマホが鳴った。
『レイナ。
今大丈夫?』
シンからの呼び出しだった。
そういえばアルバートさんとの面会? 待ちだったっけ。
「待っていた。
そろそろ?」
『うん。
面会と言うよりは報告だけど、アルバートさんが僕の部屋に来るみたい。
レイナも立ち会うようにって』
「わかった」
シンの部屋は隣だ。
誰かに案内して貰うまでもない。
と思ったらノックの音がした。
「レイナ様」
「レスリー?
今呼ばれたところ」
「はい。
非公式なので服はそのままでいいそうです」
いや、バスローブ姿なんだが。
聖力で髪を乾かしてからそそくさと服を着る。
正装ではなくて地味なワンピースにした。
レスリーも着替えたらしくて簡素だがお嬢様っぽい服だった。
「お待たせ」
「では」
というわけで隣のシンの部屋に。
シンはソファーに座っていた。
「もうすぐ来るらしいから」
「では私は控えております」
レスリーが礼をとって奥に引っ込む。
レイナはシンの隣に座った。
「あれから何か言ってきた?」
「いや。
ゴタついているみたいだね。
正式に何かするには時間がかかりそうだからアルバートさんがとりあえず説明に来るみたいだよ」
「そうなの」
だったら私はいなくてもいいのでは。
 




