321.ああ、公務員なの
「ええとですね。
実は色々あってパロディとかコメディもあるんですけれど、本筋は真面目というか。
大抵は悪の組織が世界を征服しようとか破壊しようとしていて、主人公がそれを阻止するという」
何それ?
興味ある。
ていうか悪の組織よね、番号が出てくるのって。
漫画やアニメのサイボーグの話も敵は悪の組織だったし。
「第一作はどんなの?」
聞いたらレスリーは情けなさそうな表情になった。
「すみません。
私も又聞きでよく知らないんです。
確か小説は1950年代に書かれたと聞いてますから、設定とかも古いみたいです。
映画は、ええと」
スマホで調べるレスリー。
さすがに全部暗記しているわけではないらしい。
「第一作は1962年公開ですね。
今から60年以上前です。
その時代の話になります」
「そうなの」
レイナとしてはあまり気にならない。
80日間とかワンダーなウーマンとかはもっと古かったし。
「でも、シリーズとは言っても全部繋がっているわけじゃなくて、俳優も交代していますし基本設定が同じだけど後は適当というものも多いみたいです。
そもそも時代が違えば世界状勢も変わってきますし」
「それが……ああ、そうか」
「はい。
悪の組織の性格も違ってきます。
最初の頃はギャングとかマフィアとか暇な大金持ちだったり」
それは定番なんじゃないのか。
そもそも悪の結社とかなんだから犯罪組織だろうし。
「ええと」
レスリーはスマホと格闘していた。
「主人公は英国情報部の諜報員で、つまり政府の役人なんですよ。
所属は軍隊で中佐です。
なので別に正義の為に戦うんじゃなくて、基本的には政府の命令で動きます」
「ああ、公務員なの」
「非合法ですけれどね。
最初の頃は『殺しのライセンスを持つ男』とかがキャッチフレーズだったらしくて」
「何それ」
「つまり任務で人を殺しても罪には問われないというか。
もっと言えば自分の判断で殺せるわけですね。
普通だったら警察や裁判所の判事の判断が必要なところを全部すっ飛ばせるという」
レイナは首を傾げた。
そんなの当たり前なのでは?
「軍人ってそういうものよね」
戦場でいちいち裁判官の執行命令を受けるわけにもいかない。
敵に出会ったら殺す。
「それは相手が軍人で戦争している場合です。
この映画の主人公の敵は大抵民間人なので」
なるほど、そういうことか。
確かに軍人が自分の判断で民間人を殺して回ったら大変だ。
よく知らないけど戦争犯罪とかになりそう。
ていうか普通に犯罪だ。
「つまり『殺しのライセンス』って無差別に殺して良いということ?」
「良いというよりは任務遂行のためなら構わない、ですね」
後始末は政府がやるんだろうな。
「殺伐とした話ね」
「敵もそれだけ酷いということで。
積極的に殺しにかかってくるからむしろ正当防衛に近いのでは」
「そんなものか」
いつまでも議論していても始まらないので観てみることにする。
出来ればシリーズの最初から観たかったけど、あまりにも古くさくて面白くないそうなのでレスリーが観て気に入ったという映画にする。
「『私を愛したスパイ』って」
「これが一番でしたね。
荒唐無稽さではほとんどアメコミに匹敵します」
「そうなの」




