319.遅くなりました!
『それじゃ』
シンが電話を切ろうとしたので慌てて聞いてみる。
「あの、夜食とかおやつとか誰に頼めばいいのかな」
『レスリーさんでいいんじゃないの』
投げやりな返事が戻って来た。
それもそうか。
私のメイド、じゃなくて侍女らしいからいいのか。
スマホで電話するとすぐに繋がった。
『レイナ様!
何か』
「えーと、おやつというか夜食というか」
『判りました!』
すぐに切れる。
5分もたたないうちにドアにノックの音がした。
出てみるとやっぱりレスリーだった。
「遅くなりました!」
「いや早いよ」
ワゴンには大量のお菓子が載っていた。
それだけではなしに、明らかにスイーツやパイ、ピザらしい箱もある。
紅茶のポットまで。
「こんなに?」
「厨房に押しかけてあるだけ持ってきました!」
それではもはや徴発なのでは。
レスリーのことだから権力者の威を借りてごり押ししたんだろうな。
別にいいけど。
「ありがとう。
一緒にテレビ観る?」
「お誘いは本当に嬉しいんですが、本当に残念ですが仕事がありまして」
さいですか。
やはり社畜だったらしい。
レスリーもこの歳でよくやるなあ。
「判った」
「ではごゆっくり」
レスリーが去った。
レイナはワゴンをソファーテーブルの横につけ、獲物を並べてみた。
アフタヌーンティーのようだった。
多段式のお皿に載っていないというだけで、その中身がほとんど揃っているような。
サンドイッチまである。
ひょっとしたら誰かの夕食とか夜食をかっぱらってきたのかもしれない。
気にしないようにしよう。
湯沸かしはレイナの部屋にもあるので紅茶を煎れる事が出来る。
やっぱり誰かの夜食だ。
忘れる事にしてスイーツを食べながら映画を観るレイナだった。
時々スマホを見つつ映画を堪能したレイナだったが、さすがに魔法使いの映画のシリーズを一気観というのは無理だった。
疲れたというよりは徹夜してしまいそうだ。
明日はアルバートさんだかグロリア様だかに会わないといけないはず。
ということで適当に切り上げて寝る。
起きたら夜が明けているらしくて寝室がぼんやり明るい。
遮光カーテンが不完全なんだろうか。
カーテンを開けてみたら曇り空だった。
英国って本当に晴れないのよね。
日本のドピーカンな明るすぎる青空が懐かしい。
まだ離れてから何日もたってないはずなんだけど。
シャワーを浴びてからスマホをチェックするとメッセージがきていた。
レスリーから朝食はいつでも、という伝言だ。
至れり尽くせりだな。
あの娘、本気でレイナのメイドをやるつもりみたい。
ふと気づくとソファーテーブルが綺麗になっていた。
レイナに気づかれずに掃除してお皿とかを片付けたらしい。
ワゴンもないから誰かが運び出したのか。
聖力持ちのレイナに気配を悟らせないとは凄すぎる。
レスリーに電話する。
「今起きたところだけど」
『おはようございます。
朝食をお持ちしましょうか?』
「お願い」
レスリーならバスローブでいいか。
 




