318.悪いけど、僕はちょっとやることがあって
「違います」
レスリーは毅然として言った。
「私はレイナ様に帰依しています。
死ねと命じられれば死にます」
「言わないから」
つい口を挟んでしまった。
まあ別に死んでも生き返らせるだけだが。
いや、無理か?
普通の人間は肉体が損傷しすぎると聖力で出来ている魂も分解してしまう。
かろうじて肉体が生きていても魂が消えてしまったらもう駄目だ。
どこかで読んだけど「脳死」というのはその状態なのでは。
「そこまではいかないと思うけど。
でもレスリーさんがそれほど覚悟してくれているんだったら」
シンが思わせぶりに言葉を切った。
レスリーの顔が輝く。
上手いな。
シンって私が思っているよりずっと強かで狡猾で黒いかも。
それもまたかっこいいと思ってしまうレイナだった。
それから和気藹々とお話ししながら楽しく食事を終え、レスリーがお皿をワゴンに載せて部屋の外に出した。
簡単でいいなあ。
「さてと」
シンが言った。
「悪いけど、僕はちょっとやることがあって」
「そうね」
そういえばここ、シンのお部屋だった。
レスリーと一緒に引き上げる。
レイナの部屋は隣だった。
こんなに近くに居たのか。
もっとも隣と言っても客室が広いせいでドア自体は結構離れた場所にあったけど。
「レスリーはどうするの?」
「とりあえず上に報告します。
それでは」
なるほど。
レスリーは一応、誰かの部下なのよね。
アルバートさんかな。
これからも何か仕事があるのかもしれない。
まあいいけど。
レイナはとりあえずシャワーを浴びた。
バスローブに着替えてソファーで寛ぐ。
お部屋には小型のキッチン、いや流しのようなものもついていたのでお湯を沸かしてコーヒーを煎れる。
そういった備品も一応は揃っていた。
多分、ここに泊まる人じゃなくて従者とかメイドさんとかが使うんだろうけど。
入り口の側に目立たないドアがあったので開けて見たら小さな部屋で中にベッドがあった。
つまり従者用の部屋もついていると。
ホンマモンの貴族の館だ。
ていうかここは貴賓用の客室か。
レイナもミルガンテで聖女をやっていたら、どこかに旅行するときはこういう部屋に泊まることになっていたのかも。
これほど便利じゃないだろうけど。
お茶請けが欲しかったが、さすがにそんなものはなかったのでコーヒーを飲みながらテレビを観る。
リモコンで検索して例の魔法使いのシリーズの続きを観ていると電話がかかってきた。
『レイナ。
起きてる?』
こればっかりな気がする。
「テレビ観てる」
『そうか。
グロリア様というかアルバートさんから連絡があった。
説明は明日になるそうなので、今日はこのまま休んでいいそうだよ』
「わかった」
そういえばレイナの中ではとっくに終わった事になっているけど、あの毒入り食事事件は解決してないのよね。
ていうかシンの口ぶりでは一応終わったみたいだけど。
アルバートさんから報告があるということか。
レイナとしてはどうでもいい話だ。




