27.やってみたいです
丹下先生によれば、昼間働いている人も残業で第一校時からは参加出来ない人もいるそうだ。
その他、生活のための用事が優先されるので授業の欠席も理由があれば認められている。
「それでいいんですか?」
レイナは勉強のために学園物のアニメもかなり観ている。
学校を自由に休むって不良ではないのか。
「ここに来る人は学習進度もまちまちなの。
だから一斉に授業とかはあんまりやらない。
実習くらいね」
例えば来日してやっと日本語を覚えたばかりの外国人が普通の中学校の授業を受けても五里霧中だろう。
そういう人は先生が独自の課題を出して、自分のペースで勉強すればいいらしい。
一方、ちょっとした知識不足を補うために登校するような人もいて、そちらもまた集団授業には向かない。
なので学級とは言ってもグループ以上のものでは無いそうだ。
良かった。
正直、レイナは日本の小学校の授業についていくことすら怪しいと自覚している。
まだひらがなを書くのがやっとだ。
話す方は大分マシになってきたが、それでも判らないことだらけだった。
突然中学校レベルの授業なんか受けても落ちこぼれる以前の問題だろう。
「それで、どうしますか?」
「やってみたいです」
日本語会話は何とかネイティヴ並とはいかないまでもそれなりに出来るようになった。
ただし基礎知識が徹底的に不足しているので少し突っ込まれるとすぐにボロが出る。
「大丈夫ですよ。
実は外国人の生徒が大半なので」
丹下先生に寄れば生徒の大半は家族で来日して働いている人の子供だそうだ。
日本人も外国で育って帰国したけれどあまり裕福ではなくてスクールに通えなかったり、公立の学校に通う前に基礎力を上げたいという人が多い。
年齢は一桁台から上は後期高齢者までいて、それぞれ事情がある。
そもそも普通の子供なら昼間の学校に行けば良い。
何か理由があってそれが出来ない人しかいない。
だからイジメなどはほとんどない。
万一そんなことになったら虐められた方がすぐに止めてしまう。
義務教育ではないのだ。
「では」
校舎のエントランスでシンと合流し、体育館なども見学した後帰宅したレイナは夕食を摂りながら言った。
「まだよく判らないけど行って見る」
「そうだね。
嫌だったら止めればいいし」
シンは放任主義というかある意味無責任に言った。
どうでもいいみたい。
「シンも学校に行ったのよね?」
「うん。
しごく真っ当に小学校、中学校、高校から大学に行った。
留年も浪人もしてないから合計16年間」
「そんなに!?」
「あー、こっちの世界ってミルガンテと違って文明が発達しているんだよ。
その分、大人というか成人として認められて雇って貰うためのハードルがもの凄く高くなる。
日本の場合、義務教育と言って最低でも9年間学校に行かないといけない」
「それでも9年」
「しかも義務教育が終わったからといってそれで十分というわけじゃない。
自分で起業するにしろ、どこかに雇って貰うにしろ、更に勉強して資格取ったりしないと通用しない。
実際、単なる中学校出ではもう正式に雇ってくれるところはないんじゃないかな。
というよりは18歳以下は成人とみなされないから」
思ったより厳しい世界らしい。
ミルガンテに比べて身の危険はないし食べ物は豊富だし人は気楽そうだし、案外楽かなと思っていたのだがそんなにハードルが高いとは。
「まあ、お金があれば全部スルー出来るんだけどね。
そしてレイナにはお金があるから、実際には学校なんか行かなくてもいいんだけど」
またシンが判断に困るようなことを言い出した。
「いいの?」
「まあ、行った方が経験は積めるからね。
今のままだとレイナって五里霧中でしょ」
それはそうだ。
テレビでみるだけでもこの世界がミルガンテより遙かに変化に富んだものであることが判る。
何より社会が複雑で目に見えないしきたりや慣習、常識がありそうだ。
それを知らなければ自由に暮らしていけないだろう。
「判った。
頑張る」
「その意気だ。
でも聖力はなるべく使わないでね」
言われると思った。




