315.ところでこれ、食べていい?
シンの聖力はレイナに比べたらずっと弱いけど、それでも一般人に比べたら強大だ。
というよりは比較にならない。
強い聖力使いはその気配だけで人を圧倒する。
「威圧」だ。
レイナくらいになると無意識にやってしまうのだが、シンは意識して使ったらしい。
まあいいか。
レスリーが振り向いて言った。
「アルバート様に連絡しました。
すぐにこちらに来られるそうです」
「ありがとう」
レイナはシンを見た。
アルバートが敵じゃないとは限らないのでは。
「立ち場上、ここは中立を保つしかないよ。
もし僕たちに敵と認識されたら組織が分解する」
「そうかな」
「まあ、そうなったら全部吹き飛ばして立ち去るだけだね」
なるほど。
想像してみた。
悪の組織の怪人が部下の戦闘員たちを率いてレイナたちを襲ってくる。
ピンクが戦闘員の相手をしている間にレッドが怪人を倒すと。
シンの必殺技は何にしようか。
「レイナ様、顔」
しまった。
またやった。
「どうしたの?」
何も知らないシンが聞いてくるけど「何でもない」と誤魔化す。
私も特撮脳になってしまっているみたい。
「ところでこれ、食べていい?」
お腹が空いているので聞いてみたけど「駄目」と言われた。
大事な証拠物件だからだそうだ。
もったいない。
5分もたたないうちにアルバートが現れた。
後ろから何人かが付いてこようとしたがアルバートがドアを閉める。
いきなり聞いてきた。
「どれですか?」
シンの合図でレイナが教えると頷いた。
スープとサラダのお皿を隔離する。
美味しそうなのに(泣)。
レイナなら何でも中和、いや無かったことに出来るから、どんなに強力に毒だろうが無意味なんだけど。
シンが視線で黙っとくようにと指示してくるので我慢。
アルバートはスープとサラダをじっくり眺めてからスマホを盗りだしてどこかに電話した。
まだ判らないなあ。
どうもこのアルバートさん、シン並に策士くさいのよね。
本人の仕掛けだったとしても平然と調べたりしそう。
「グロリアに伝えた。
すまないが食事は延期して貰いたい」
「それはいいけど」
シンが色のない口調で言った。
「次にこんなことがあったら僕たちは出ていくから。
そこで協力関係は終わりだ」
「承知した」
うーん、二人とも「大人の男」ね。
シンってやっぱりかっこいい。
ちなみに二人とも何気ない口調だけど根底に冷たい物が居座っている。
本気だ。
最悪、殺り合う覚悟があるのよね。
レイナ自身は人を殺ったことはないけど、シンの場合神官教育や訓練の一環でそういうこともやらされると聞いたことがある。
聖力使いはふとしたことで人を殺しかねない。
なのでどこまでやったらヤバいかを知っておく必要があるそうだ。
ひょっとしたら本当に誰か殺しているかも。
まあいいけど。
アルバートが自分のスマホでどこかに連絡すると、しばらくして数人の若い男達が現れた。
押してきたワゴンに料理を全部載せて去る。
「僕たちも引き上げて良いかな」
「もちろんだ。
申し訳ないことをした」
「ああ、いいよ。
いつかはこんなこともあるとは思っていた。
食事の手配をよろしく」
「了解した。
レスリー。
ご案内してくれ」
「はい」




