313.フォアグラは?
「読めない」
「希望を言って頂ければ私が注文しますけど」
「そんなこと言われてもね。
ラーメンとかカレーとかはないの?
炒飯は?」
レスリーがため息をついた。
「正式なディナーコースですよ。
始祖様にそんな庶民の食事を出してくるわけがないでしょう」
「私は庶民なのに」
文句を言いたくなるレイナだったが仕方がない。
レスリーに相談した結果、とりあえずフランス料理の伝統的なコースをお願いした。
「トリュフとか言われても判らないんだけど」
「菌類の一種で高級食材です。
キノコの類いですね」
「フォアグラは?」
「ガチョウやアヒルの肝臓です」
ゲテモノ料理か。
「ステーキとかはないの?」
「ありますけれどそんなの料理人のプライドを傷つけます」
何だよそれ。
「昨日食べたのは美味しかった」
「あれはむしろアメリカンですからね。
フランスはともかく米国は駄目です」
何か謎のコダワリがあるらしい。
一流の料理人なんだろうか。
星付きとか。
「しょうがない。
お部屋で食べていいの?」
「フルコースなので出来れば食堂にお越し頂ければと」
面倒くさいなあ。
「誰かと会食?」
「それは何とか阻止しました。
一人に許すと際限なく希望者が湧いてくるので」
それはそうだろうな。
「シンは?」
「ご一緒です」
ならばいいか。
ということで時間を合わせてレイナとレスリーは食堂に向かった。
相変わらず広い屋敷で今どこにいるのかすらよく判らない。
案内なしでは自分の部屋にも帰れそうにもない。
「レスリーはよく判るね」
「私、一度通った道は忘れませんし地図を一度見れば覚えられます」
ダンジョン攻略パーティには是非とも欲しい人材だった。
それにしても単なるアニメヲタクの金持ち令嬢かと思っていたこの少女、色々使い勝手が良すぎない?
「何か?」
「何でもない」
悪役令嬢物(違)に出てくるヒロインの相談役ってこんなのかもしれない。
何気にヒロインよりスペックが高いのよね。
曲がりくねった廊下を通り抜け、広い階段を降りてたどり着いた先はこぢんまりとした部屋だった。
会食というよりは密談用?
ごく親しい人を招いて食事しながら会わせをしたりするという。
「やあ」
「久しぶり」
先に来ていたらしいシンと挨拶を交わす。
「他には?」
「いないみたいだよ。
ていうかそうお願いした」
シンの希望だったのか。
まあ、ここ数日何かとすれ違ってばかりだったものね。
電話では毎日会話していたけど、やっぱり顔を合わせないと。
そう思った途端、実はちょっと寂しかったことに気がついた。
考えてみたら初めて来た外国でひとりぽっちだった。
レイナはミルガンテの大聖殿で鍛えられていたので割合平気だったけど、それとこれとは別だ。
「寂しかった」
「そうかい」
シンが頷いた。
「ご免」
「シンが謝ることじゃないと思う。
むしろ」
「うん。
改善を申し入れるよ」
良かった。
せめてお部屋を隣にして貰えると嬉しい。




