309.レイナ様はステーキ好きですよね?
「じゃあ、何か考えておきます」
レスリーがそう言ってスマホを仕舞った時に折良くチャイムが鳴った。
ルームサービス? が届いたらしい。
レスリーが立ってドアを開け、ワゴンを押して戻ってくる。
「お食事です」
「どれどれ」
そういえば注文した覚えがない。
お任せランチという奴か。
レイナの部屋にはソファーテーブルの他にもベランダ側に食事用のテーブルがあった。
レスリーが手早くナプキンを敷いてお皿を並べる。
メイン惣菜はでかいステーキだった。
「レイナ様はステーキ好きですよね?」
アルバートとの問答でそう言った覚えはある。
とはいえ、あれは成り行きでレイナは何でも好きだ。
ミルガンテに比べたら残飯だってディナーになってしまう。
「うん。
ありがとう」
一応、礼を言っておく。
向かい合って坐り、そのまま食べ始める。
そういえばレスリーは食前のお祈りってしないのか。
聞いてみたらあっさり言った。
「人それぞれですね。
私も一応はキリスト教徒なんですけど、外国暮らしが長くてその土地に合わせるようになってしまいました。
朱に交われば朱くなるということで」
レイナも知らないような日本語の格言とかよく出てくる。
もはや単なる趣味じゃないな。
ひょっとしてレスリーって言語学者の卵とかなのかもしれない。
まあいいけど。
ステーキは大きくて美味しかった。
リブロースステーキとかだそうだ。
聞いたら1ポンドだと言われた。
「ポンドって?」
「英国圏で使われている重さの単位です。
確か1ポンドが0.45キログラムくらいだったと」
するとこのステーキは450グラムか。
でかいはずだ。
もっともレイナは本気になれば1キロくらいのステーキを平気で食べるので大きすぎるというほどでもない。
むしろ目立っているのはステーキより重いのではないかと思える巨大なイモだった。
丸ごと焼いて中心を割って溶けたバターが載っている。
その横にはバターを入れた器が。
「これは?」
「英国の定番、ベイクドポテトです。
ステーキにはこれに限るという人も多いので」
さいですか。
まだまだレイナの知らない料理は多い。
というよりは知っているのはまだごく一部だろう。
これは楽しみになってきた。
「色々な料理を食べ歩きたい」
「了解です」
グルメ旅になりそう。
ステーキもポテトも美味かった。
きっと一流の素材を腕利き? の料理人が調理しているんだろうな。
ファミレスとはひと味もふた味も違う。
当たり前だけど。
食べ終わってデザートのコーヒーを飲む。
余は満足じゃ。
どこかで聞いたフレーズが出てきたけど口には出さない。
レイナがまったりしているとレスリーがワゴンを引っ張ってきてお皿などを載せていた。
そのままドアに向かい、外に出す。
「それでいいの?」
「置いておくと持っていってくれます。
というよりはレイナ様のお部屋には入室禁止令が出ているので」
そこまで。
するとレスリーは例外、というよりは特権的な立場なわけね。
お掃除とかはどうするんだろう。
「レイナ様が外出している間にやるそうです。
だから逆に一日一度はスパとかに行って頂きたく」
なるほど。
ならば早速。




