304.伝えておきます
そんな牧歌的なレイナの感想をよそに、講堂にいる人たちの間を興奮が駆け巡っていた。
何か叫びながら立ち上がって手を振り回す人。
半信半疑で腕や胸などをさすっている人。
手を広げてまじまじと見つめている人。
大半はあっけにとられているだけだったが、興奮が伝わったのか叫ぶように会話していた。
あーあ。
これは当分収まらないな。
シンを見たら肩を竦めてちょっと笑っていた。
まさかこれもシンの策謀なんじゃないでしょうね?
まあいいけど。
喧噪はしばらくたってからグロリア様が一喝したことで止まった。
グロリア様はそのまま単調な声で話し始め、全員が熱心に聞いているようだ。
でも視線はレイナに集中している。
ウザい。
逃げて良いのかシンに聞こうとした時、シンが穏やかに口を挟んだ。
「We would like to leave until a decision is reached.」
「……Ah! I'm sorry about that. Please have a good rest.」
「thank you.
レイナ、行こう」
許可が出たらしい。
シンに続いてレイナが立ち上がるとレスリーが当然のような表情で先導してくれた。
歩きながら小声でシンに聞く。
「いいの?」
「組織の意思決定の場だからね。
部外者の僕たちがいてもしょうがないでしょ」
それもそうか。
でもだったらなんで呼ばれたのか。
「レイナを見せたいというグロリア様達の指示だよ。
出来れば聖力を披露して欲しいと言われていてね」
「だったらそう言えばいいのに」
「レイナだったら言わなくてもやると思った」
この男も何というか。
私の周りって道化師ばっかりなんじゃないの?
まあいいけど。
シンとレイナが講堂の真ん中を突っ切って外に出るまで視線が追いかけてきていた。
でも誰も何も言わない。
こんなんでいいのか。
シンにお任せだ。
「さて。
結論が出るまではまだ待機だと思うけど、何か聞いてる?」
シンがレスリーに聞いていた。
「いえ。
特に指示がないので」
「だろうね」
というわけさ、とシン。
また軟禁生活に戻るのか。
レイナがうんざりしていると廊下を歩きながらシンが言った。
「いや、状況は結構改善していると思うよ。
今ならレイナが何か言ったらそのまま通るだろうし」
「そうなの?」
レスリーが頷いた。
「大丈夫だと思います。
それこそ観光でも何でも」
「今のでレイナは始祖とやらの再来に確定したからね。
あそこには現時点でレイナに逆らおうとする人なんかいなるはずがない。
まあ、懐柔しようとする人が寄ってくるかもだけど」
「それは嫌だな」
「伝えておきます」
あれ?
今のもレイナの「希望」いや「命令」になってしまうのか。
ヤバい。
うっかりした事は言えないな。
それから一行は押し黙ったまま延々と歩いて部屋に戻った。
何でこんなに無駄に広いんだろう。
貴族って凄い。
「それじゃ」
「うん」
シンと別れてお部屋に入る。
やっぱり当たり前のようにレスリーがついてきた。
「何?」
「侍女ですので」
もはや遠慮も何もなくなってしまっている。
まあいいけど。
「コーヒーが飲みたい」
「かしこまりました」
本当に侍女をやる気だ。
だったらもういいか。
ミルガンテの大聖殿ではレイナに侍女がついていたから昔に戻ったと言えなくもない。
レスリーほど馴れ馴れしい侍女はいなかったけど。




