302.本当にお化粧とかしてないんですか?
「それでは」
レスリーはまだ用があるらしくて去った。
レイナとしてはテレビでも観るしかない。
いつ呼び出されるか判らないのでプールやスパにも行けない。
適当にチャンネルを合わせてテレビを観ながらスマホを弄る。
ナオやリンからメッセージが来ていた。
ナオの方は事務連絡で、レイナの長期不在が決まったことで部屋の定期的な清掃と維持管理の手配をしたとのことだった。
専門業者に頼んだとか。
一瞬、パニックに陥ったがお部屋には大したものは置いていない。
ラノベやコミックのたぐいも十代の少女の持ち物としては許容範囲内だろう。
ヲタクというほどには所持していないはずだ。
ていうか漫画喫茶に行くようになってから本は買ってないし。
リンは単純に羨ましがっていた。
というよりは怒っていた。
レスリーと一緒にアーサー王のお墓の前で撮った写真を送ったのが逆鱗に触れたらしい。
愚痴とも恨み辛みともつかない言葉が並んでいる。
だってしょうがないでしょう。
まさかリンを呼ぶわけにもいかないし。
そもそもレイナは観光に来たわけではない。
下手するとドンパチが始まるかもしれないのに。
スマホを放り出してテレビに集中する。
最近はお屋敷に引きこもっているせいもあって、ロンドン近郊に出没しているとされる謎の銀髪プリンセスの噂もやっと下火になってきた。
一時は隠し撮りされたらしいレイナの写真がテレビにも頻繁に出ていて大変だった。
何でそんなものが話題になるのか。
英国の人ってよほど暇なんだろうか。
まあいい。
人の噂も75日と聞いているけど、1週間くらいで収まってきたのは幸いだった。
今の世界は情報量が多すぎて熱しやすく冷めやすいんだろうな。
ヒストリーチャンネルで古代ローマ軍の再現ドラマを観ていたらチャイムが鳴った。
「何?」
『レスリーです。
お時間になりました』
さいですか。
「5分待って」
言い捨ててとりあえず全部脱いでからシャワーを浴びる。
時間がないので聖力で身体を乾かしてから例の聖女服を身に纏う。
スマホはいらないか。
「お待たせ」
「早すぎますよ!」
レスリーに呆れられてしまった。
レイナはお出かけの準備に時間をかけない。
すっぴんだし。
「本当にお化粧とかしてないんですか?」
「してないよ」
「それでこの状態だとしたら詐欺ですよね……」
レスリーに呆れられた。
だって身体はともかく皮膚は赤ちゃんだし。
「行こうか」
「はい」
廊下には人気がなかった。
もともとそうなのか、あるいはレイナたちがいることで人払いされているのか。
レスリーはレイナを連れて迷いもせずに廊下を進み、階段を降り、何度も角を曲がってから立派な扉の前に立っている黒服の男に言った。
「ご案内させて頂きました」
無言で頷いて扉を開ける男。
重々しいな。
そこは講堂? だった。
長椅子がずらっと並んでいて、突き当たりの床が一段高くなっている。
椅子は人で埋まっていた。
ぎっしりだ。
数十人はいそう。
レイナが扉をくぐると一斉に呟く声が沸き起こった。
「That's the princess!」
「beautiful!」
「I thought she was an angel, but she's a goddess!」
勝手な事を言っているらしい。
プリンセスとかゴッディスとか聞こえたけどやっぱり王女や女神とかだと思われているみたい。
面倒くさいなあ。




