300.前にもこういった経験がおありなのでは
レスリーはタブレットの設定を終えると箱を持って去った。
その際、テーブルに放置されていた壊れた盗聴器も持ち去ったみたい。
まあいいけど。
レイナは早速ソファーに寝そべるとタブレットでコミックサイトを呼び出してみた。
新作がアップされていたので読む。
何か日本に居るときと同じ事をやっているなあ。
堕落した聖女になってしまった。
それからレイナの怠惰な日々が続いた。
夜中までテレビで配信のアニメなどを観て、朝はゆっくり起きる。
ルームサービスで朝食を摂ってからスパに行って泳いだりフィットネスジムで運動したり。
その際、必ずレスリーを伴う。
これはレイナの我が儘ではなくて、トラブルを避けるためにもレスリーを側に置いておく必要があるから。
実際、泳いでいるとプールサイドに侵入しようとする人がいたりしていた。
その度にレスリーが警備を呼んで叩き出していた。
「ああいうのは防げないの?」
「このお屋敷は別にグロリア様が支配しているわけではありませんから。
上から命令されたら従ってしまう人も結構いるみたいで」
警備の人が対抗出来ないくらい上の方の人も来たけど、そういうのはレイナ自身が聖力で遠ざけた。
この辺はミルガンテでも時々あったので慣れている。
もっとも大聖殿ではレイナの周りには常に侍女や護衛がいたから、自分で対応することはまずなかったけど。
「前にもこういった経験がおありなのでは」
「まあね。
組織が大きくなると、どうしても制御しきれない部分が出てくるから。
最終的には力で対応するしかない」
圧倒的な聖力を持つレイナだからこその論理だった。
そもそもレイナ個人にしてみれば、別に護衛など必要ではない。
自力で何でも出来るし無敵だ。
お体裁のために任せているだけだったりして。
運動から戻って食堂に行って昼食を摂りながらシンやグロリア様などとお話しする。
毎回、複数の同席者がいた。
食後に同席者をチェックして悪い所があれば聖力で一撫で。
なぜか身体が不調な人ばかり来る。
終わったら毎回お祭り騒ぎだ。
グロリア様はレイナを利用して立場を固めているみたい。
それは同時にシンとレイナの地位を強化することに繋がるから真面目にやっている。
食事から戻ってテレビを観たりコミックを読んだりして夕食までまったりと過ごし、夜は夜で晩餐に出席した人をチェックして治す。
地球に来てから今が一番聖女らしいことをやっているのかもしれない。
それを除けばヒキニートそのものだけど。
そんな生活が1週間くらい続き、さすがに飽きて来た頃に事態が動いた。
ある日、昼食の席でグロリア様が言った。
「The date for the extraordinary general meeting has been decided.」
ええと。
シンを見たら肩を竦めて「総会の日が決まったってさ」と。
やっとか。
タイミングを計っていたな。
今までレイナと一緒に食事して身体を治して貰った人たちは多分、無条件でレイナ側というかグロリア様の手先みたいなものに成り果てているはず。
今のレイナとシンはグロリア様の庇護下にあると認識されている。
組織内には他にも色々な派閥がありそうだけど、いち早く動いたグロリア様がレイナを確保してしまった。
後で聞いたけど、グロリア様はタイロン氏の姉だそうだ。
タイロン氏が日本てレイナを見つけたことで大当たりを引き当てたというところか。
レイナはともかくシンからみてグロリア様は組みやすい相手だったらしい。
「グロリア様は難病を煩っておられたからね。
それをあっさり治したレイナを軽んじるわけがない。
利用しようとはするだろうけど」
「それはいいの?」
「僕たちは別に組織を乗っ取ろうとか思ってないしね。
力がある派閥に保護して貰えれば十分でしょ?」
なるほど。
シンって実はズボラだ。
ナマケモノというよりは効率厨だけど。
面倒くさいことはなるべく誰かに押しつけようとする。
そもそも自分がトップに立って何かやりたいタイプじゃないし、むしろ束縛が嫌いで好きに動きたいのだろう。
そのためには権力者に多少は阿ることも厭わない。




