297.嫌なら断ってもいいの?
そんなこと言われてもね。
特にやりたいこともない……あ、そうか。
「もっと観光とかしたい」
「それはもう少し状況が落ち着いてからにしてよ」
シンに遮られた。
「いつまで待てば?」
「臨時総会の準備が進められていると聞いています。
それが終わるまで、ですかね」
レスリーが侍女らしからぬ口調で言いながら立って、部屋の隅にあったワゴンから茶器を運んできた。
それぞれの前に配膳する。
コーヒーだった。
ありがたや。
英国は紅茶が主流らしいけど、レイナはコーヒーの方が好みだ。
「お、ありがとう」
「レイナ様の侍女ですので」
シンに言われて澄まして応える侍女。
見た目はお嬢様なんだけど、そもそも侍女って身分がある女性のお役目なのよね。
平民ならメイドになるはず。
レイナはコーヒー口に含んだ。
あら、美味しい。
「レスリーが煎れたの?」
「いえ。
お屋敷の厨房が用意したみたいです。
私にはそんな技量はないので」
お嬢様だもんね。
「さてと」
シンがコーヒーカップを置いて言った。
「ここでまとめておこうか。
後は今後のざっとした方針ね」
「判った」
「はい」
レスリーも身内扱いらしい。
「現時点ではボールは僕たちの手を離れてタイロン氏だかグロリア様だかの手にある。
僕もレイナも組織内での立場は仮だからね。
でも何かを強制的にさせられることはないと確約して貰えた」
「強制的にはない、ということは依頼とかお願いとかは有り得ると?」
レスリーが聞いた。
完全にこっち側の立場だなあ。
「そうだね。
レイナの聖力が広まっているから、身体を観て欲しいというようなお願いは殺到するはずだよ。
レイナ、よろしく」
面倒くさいなあ。
まあ、大した手間でもないからいいけど。
「嫌なら断ってもいいの?」
「いいよ。
向こうが無礼だったり横柄だったりしたら叩き潰していいと言われている。
もちろん変なお願いなんか聞いてやる必要はないから」
過激だな。
「そもそもレイナ様に逆らったり敵対したりする者がいるなどとは信じがたいのですが」
レスリーが言うけど、まだ甘いな。
ミルガンテでもそういう感情は公然と横行していた。
人は理屈より感情で動くから。
「いるみたい。
まあ、どこの世界にもとりあえず反発したり噛みついてきたりする人はいるからね。
大体、客観的には僕たちって突然出てきて組織を乗っ取ろうとしているとしか思えない状況でしょ。
むしろすんなり従う方が変だ」
それもそうか。
ミルガンテではどうだったっけ。
あそこは聖力が全てだから、いきなり外部から強力な聖力持ちが来ても受け入れるような気はする。
でも大神官連中は駄目かも。
「そういうのが突撃してくるかもということですね」
「グロリア様たちは敢えて受け入れてレイナに会わせるかもしれない。
そういうところはスパルタだよね。
ちなみに潰すか従わせるかは自由にしていいと言われたよ」
さいですか。
まあ、そういうのはグロリア様の敵対派閥の人だけだろうし。
しかし潰すって。




