25.お家賃はどれくらいなの?
それから二月ほど後、シンとレイナはお引っ越しをした。
新しい家というかお部屋はもの凄く巨大で高い建物の上の方にあった。
今まで住んでいたアパートとは桁違いだ。
何せお部屋に行くのに階段を使わない。
自動的に動く小さなお部屋で移動する。
大聖殿かと思うような入り口には門番みたいな人がいて、その他にもいつも綺麗な女の人がカウンターとやらの席についている。
「タワーマンションまではいかないけど、セキュリティが強力だから。
滅多な人は入り込めない」
よく判らないけど安心らしい。
「お家賃はどれくらいなの?」
これまでのクソ勉強でレイナの日本語と社会常識は向上していた。
「買った。
管理費と修繕積立金で月に10万くらいかな。
後は税金」
もの凄い額だ。
その管理費とやらだけで若い人達の給料の大半が消えてしまうのでは。
「僕だってサラリーマンの給料だけじゃ住めないよこんなところ。
というよりは買えない」
あれからレイナは数回、例のナンバーズとやらを操作していた。
一度などは少し毛色が変わった大規模な舞台での数字を操作したところ、シンが「……ちょっとやり過ぎたかも」と呟いたくらいで。
それ以来、シンが頼むことはなくなったので数あわせの聖力は行使していない。
お金や仕事の事はまだよく判らないのでシンに任せきりにしてあるが、シンは万一の時のためだと言ってナンバーズやロトといったお金儲けの方法について教えてくれた。
「お金が足りなくなったらちょっとやればいいから。
でもあまり多発すると役所や危ない所に目をつけられたりするから用心して」
「わかった」
レイナは未だに生活手段としてのお金の事がよく判らない。
何せ物心ついた頃から大聖殿で暮らしていて、そもそもミルガンテでは何か買ったりしたこともなかった。
それどころかお金自体を転移してきて始めて見たくらいで。
もちろん聖女教育の一環として社会経済について教えられていたから、その存在は理解していたけど。
ちなみに何で使わないし周囲にないものについて学ばねばならないのか教師に聞いたところ、教育係の老神官は「知らないということは全ての問題の原因なのですじゃ」とか言っていたが。
シンにそう言ったら頷かれた。
「正しいよ。
お金の事を知らなかったら誰かがレイナに『ちょっと困っているからこの丸い物と同じ物を作って欲しい』とか言って偽造させようとするかもしれないでしょ」
「まさか」
「社会常識を知らないとそういう間違いをしかねないから。
だから勉強して」
「はーい」
新しい家にはお部屋がたくさんあった。
レイナは自分専用の部屋を貰ったが、その部屋だけで前のアパートの部屋と台所とお風呂などを全部含めた広さの倍くらいだった。
ミルガンテの大聖殿でもこんなに広い部屋を一人で使ったことはない。
とりあえずベッドと机を入れたが広すぎて落ち着かない。
部屋についているクローゼットの中もスカスカだ。
「好きな物を買いなよ」
シンがクレジットカードなるものを渡してくれたので、それで買物が出来るようになった。
「どれくらい買って良いの?」
「月額百万円までね。
レイナの口座にはその百倍くらい入れてあるけど」
さいですか。
一応、日本の常識として普通の人の一月の生活費は知っているので呆れるばかりだ。
あのナンバーズというのはそれほどのものなのか。
例の民政委員のおばさんはシンが知らせたらしくて訪ねて来たが、シンとレイナはマンションに付属している喫茶店で会った。
部屋には入れたくないとシンは言っていた。
「あらあらまあまあ!
どうなさったの?」
「会社辞めて起業しようと思いまして。
レイナの保護者は続けるので大丈夫です」
「そうなのですか」
おばさんはあからさまに色々聞きたそうだったが、シンは断固として何も言わなかった。
ぷらいべーと、だそうだ。
おばさんとしても民生委員としての立場上、無理に干渉出来ないようで「レイナさんは問題なさそうですね」とか言いながら書類を出してきた。
「役所の方で調べたところ、訪日外国人の中にレイナさんに該当する方はいないということです。
近々役所から連絡が来ると思います」
「どうなりそうですか?」
「入国記録がない以上、不法入国なので普通は収監されますがレイナさんは未成年で、どうみてもご自身に責任能力がありません。
なので身元引受人がいて生活能力があることが証明されれば特例措置として日本国籍の取得も可能です」




