286.ルームサービスを頼めるはずです
「レスリーはやったことあるの?」
「ありませんよ。
結構お金がかかるらしいですし」
それはそうだろうな。
今の話が本当ならサウナ小屋って人里離れたかなり広い雪原の真ん中とかにあるはず。
近くに関係ない人がいたら全裸で転げ回るなんか出来ないだろうし。
しかも雪が積もってないと駄目だ。
「いいね。
いつか行こう」
「はい!」
嬉しそうだな。
レスリーはお嬢様ではあるけど、その分自由はなさそうだ。
自分で稼いでいるわけじゃないから勝手に出かけたり観光したりは出来ない。
でもレイナにくっついていれば。
やっぱり油断がならない女だ。
レイナはもう一度サウナに入ってからプールに戻って一泳ぎした後、更衣室で着替えた。
濡れた水着などは籠に入れておけばいいということだった。
受付の人にお礼を言って本館? に戻る。
運動したせいかもうお腹が空いてきた。
「ちょっと何か食べたいんだけど」
「ルームサービスを頼めるはずです」
さいですか。
成り行きでレスリーと一緒にお部屋に戻って内線電話で(レスリーが)注文すると、すぐに軽食が届いた。
いや軽食と言っていいのかどうか。
「これ、アフタヌーンティーじゃない?」
「ですね」
ワゴンに載っているのは多段式のお皿に盛られたスイーツや菓子パン、果物など。
それ以外にもサンドイッチやパイ、ピザのお皿まである。
当然のことながら紅茶のセットも。
「レイナ様の注文ですから厨房も気張ったんでしょうね」
「まあ良いけど」
大は小を兼ねる。
レイナは割切って美味しく頂く事にした。
食べながらふと思いついてスマホを見てみる。
ナオからの定時連絡みたいなメッセージとリンの「今何してる?」的な日常会話しか来ていない。
シンからも何もなかった。
待機してろってことか。
レイリーもスマホを見ているので聞いてみたら「特に何も」ということだった。
組織から細かい指示が出ているわけではなくて、とにかくレイナにひっついていろという命令らしい。
「そうなんだ」
「成り行きとは言え、今のところ私がレイナ様に一番近い立場にいると見なされていますので。
このままいけばレイナ様の侍女として定着できそうです」
嬉しそうだな。
この女の思考は異文化過ぎて私の手に余りそうだ。
後でシンに指示を仰ごう。
「好きにすれば?」で片付けられそうだけど(泣)。
しばらくは二人とも黙りこくって食べていたが、紅茶のお代わりを煎れる時点でふと思いついたようにレスリーが言った。
「そういえばレイナ様。
組織の始祖のことについてどれくらい知ってますか?」
食べかけのパイをごっくんと飲み込んでから答える。
「ほとんど何も知らない」
「ですよね。
私達は子供の頃から何となく教えられるんですが、表だって話題になることもないし、外からみたら五里霧中のはずです」
「そうなの」
「はい。
でもレイナ様やシン様はそれでは拙いのでは」
それはその通りだ。
何だっけ。
己を知り敵を知れば百戦危うからずだったっけ。
 




