283.ヤード・ポンド法って?
そういえばどこかで聞いたことがある。
日本は世界でも珍しいというか先進的な水泳強国なのだそうだ。
公立の学校に水泳プールがあること自体、日本以外では珍しいとか。
日本人の子供は授業の一環として水泳を習うみたいだけど、それは色々条件が重なったかららしい。
まず、日本は水が豊富で国中に川があるし、島国だから周囲は全部海だ。
よって住民が水に接する機会が多い。
山国だから川の流れが急で、水に入るとうっかり溺れたり流されたりする可能性が高くなる。
なので日本人は子供の頃から泳ぎを覚えることが義務化されたらしい。
実はプールって作るのにも維持するのにもお金がかかる。
普通の国だったら国中の学校に専用プールを作ったりはしない。
でも日本は政府の教育方針で随分昔からそれを実現しているということだった。
子供のうちに泳ぎを覚えれば、万一の時も助かる確率が高くなるものね。
そういう理由で夜間中学にも水泳の授業があって、夏の間にレイナもプールに入った。
もちろんレイナは泳げなかったけど、ネットでそれっぽい映像を見てから泳いでみたら出来てしまった。
どうも最初のうちは聖力で浮いていた臭いけど、そのうちに身体が慣れて普通に泳げるようになったらしい。
フォームはイマイチだけど。
レイナはまず定番の平泳ぎでプールを一往復してからクロールに切り替えて泳いでみた。
何かちょっと短いような?
レスリーがのんびり泳いで来たので聞いてみる。
「このプール、25メートルよね?」
「違います」
立ち泳ぎしながら平然と答えるレスリー。
「英国の長さの単位はヤード・ポンド法です。
1ヤードは1メートルよりちょっと短いんですよ。
91センチくらいですかね。
なので25ヤードプールは22.8メートルくらいです」
そうなのか。
知らなかった。
「ヤード・ポンド法って?」
「そういう計量体系というか単位系があって、英国やアメリカで採用されてます。
国際的にはメートル法が主流で標準なんですが、まだヤード・ポンド法を使っている国もあるので」
レスリーってヲタクの割に雑学にも強いのよね。
これは多分、子供の頃から世界各国を転々としていたためだ。
行った先の「常識」を覚えなければやっていけなかったはずだから、自然と世界中の雑学知識に詳しくなったと。
「知らなかった」
「日本で暮らしていればまず関係してきませんからね。
でもヤード・フィートってメートルより発祥が古いんですよ。
インチっていう単位もありますけど、1ヤードが3フィートで12インチです」
さいですか。
「12進法なのね」
「ですね。
ちなみにフィートって単位は足の長さから来ています。
ほら、feetって英語で足の意味でしょう。
紀元前2500年頃には既にそういう計測単位があったみたいです」
「そうなの」
ヲタクの蘊蓄が始まったら耐えるしかない。
結構面白いからいいけど。
レスリーは立ち泳ぎしながら話し続ける。
「今の1フィートは国際規格なんですけど、これって昔のより少し大きいそうです。
昔の人は足が小さかったんでしょうね」
どうでもいいけど、なるほど。
ミルガンテではそんなこと誰も気にしてなかったっけ。
そもそも聖女教育に数学や科学は入ってなかったし。
せいぜい算数?
思えば遠くに来たものだ。
ため息をつくレイナだった。
レスリーがふと我に返って謝ってきたので手を振って泳ぎに戻る。
背泳ぎやバタフライもやってみたけど普通に出来た。
どこら辺から聖力が働いているんだろう。
ひょっとした最初からかも。




