282.日本の銭湯じゃないですから
健康ランドとまではいかないけど、小型のリゾートホテル並のコンテンツが揃えてあるらしい。
お金掛けてるなあ。
プールサイドにある受付みたいな場所から制服を着た人が出てきてレスリーと少し話してから引っ込み、箱を2つ取り出してきた。
一礼して消える。
事務的だな。
「これは?」
「水着とかタオルとか一式だそうです。
ちなみにサイズが合わなかったら取り替えてくれるそうで」
なるほど。
レスリーについていくと「locker room」というプレートが貼ってあるドアがあった。
ここか。
「どうぞ」
ドアを開けると細長い部屋でドアが2つある。
「for women」のドアを選ぶとずらっとドアが並んでいた。
「個室なのね」
「日本の銭湯じゃないですから」
それはそうか。
ここは欧州だった。
同性と言えど大っぴらに裸を晒す習慣はないんだろうな。
個室は思ったより広かった。
前面が鏡張りで流しもある。
単なる更衣室というわけではなさそう。
ああ、なるほど。
女性の場合、泳いだ後にお化粧を直したりその他色々あるのかも。
レイナには無縁だが。
棚に箱を置いて開けて見ると水着や水泳帽にタオルなどが入っていた。
水着は幸いにしてワンピースだった。
でも白?
まあ紺色だったらスク水になってしまうし。
服を全部脱いで着替えてみたら、胸や腰も無理なく入った。
特に苦しいということもない。
結構収縮性が高い素材を使っているんだろうな。
これはいい。
個人用に欲しいくらいだ。
後で頼んでみよう。
日本で買った水着はイマイチ私の体形に合わないのよね。
聖力で何とかしているけど、面倒くさい。
髪をまとめてから帽子を被る。
顔が剥き出しになってしまったが誰が見るわけでも無いから大丈夫だ。
隣の個室からは気配がしないからレスリーはもう出ていったみたい。
レイナも続いてlocker roomを出てみたら、プールサイドでレスリーがストレッチをやっていた。
私の案内役じゃ無かったのか。
誰も見ていないといつもの態度に戻るらしい。
レイナはため息をついてからレスリーの隣でストレッチを始めた。
しばらく身体を動かして、暖まったところでプールに入る。
心配していたほどには冷たくなかった。
「一応、温水みたいです」
レスリーが隣を泳ぎながら言った。
情報遅くない?
冷水だったらどうするつもりだったんだろう。
「わざわざ暖めたの?」
「基本的にいつでも泳げるようになっているらしいですよ。
ここに滞在している人って大抵は重要人物なので」
そうなの。
贅沢な。
でもリゾートホテルならあり得るか。
お金持ちのオモテナシは桁が違う。
レイナは夜間中学の授業で教えて貰った泳ぎを一通り試してみた。
ミルガンテの大聖殿では水泳の授業など存在しなかったし、何なら「泳ぐ」という習慣すらなかった。
大聖殿はミルガンテ国のの中央あたりにあって海は遠かった。
近くの川は泳げるような状態ではなかったと聞いている。
そもそも泳ぎを覚える必然性がない。
人間は必要に迫られなければ泳いだりはしない。
 




