274.役者の知名度で客を呼ぶわけね
色々あったけど何かよくわからないうちに映画が終わった。
「え?
ここで終わり?」
何も解決してないどころか謎が増えただけだった。
「だから原作小説では全7巻かけてストーリーが進むんですよ。
つまりすべてが一応解決するのにそれだけかかります」
「ということは最後の映画以外は『続く』で終わると」
「シリーズってそういうものでは」
遠大だなあ。
「それで映画が8本もあるのね」
「原作では一巻につき1年が経過します。
映画も同じですが、最後だけ前後編で2巻ですね」
「なるほど」
つまり主人公たち役者は7年間もこのシリーズに出続けていたわけか。
しかも思春期。
最初と最後では年格好が全然違っていたはず。
するとレスリーが思いついたように言った。
「主人公や脇役の俳優は始まった時は子供だったんですけれど子役じゃなくて最初から役者です。
主人公が11歳の時に物語が始まるんですが、終わった時には18歳です。
まさに青春を捧げたという感じで」
「大変ね」
でも映画は大ヒットしたんだから十代でスターになったはず。
「うーん。
いわゆる映画スターとはちょっと違う気がします」
「どういうこと?」
「ずっとこの映画の登場人物を演じてきたわけですよね。
しかも同時期には別の作品には出られませんでした。
現実と映画で本人が同時に成長するわけですから、俳優とキャラが同一視されてしまって」
それって。
「大ヒットした長編シリーズの主役だった役者って、イメージが固定されてしまうんですよ。
この人はあの映画の○○だ、と認識されてしまうと、他の映画に出ても○○が出てるみたいな捉え方になってしまって」
それは役者としては致命的かもしれない。
レスリーが言うには「はまり役」と巡り会った役者はもう、その役以外ではお呼びがかからなくなるそうだ。
もちろん本物の大スターなら本人自身の存在感が大きいから別の映画に別の役で出ても「あ、あの人が出てる」で済むという。
「日本にも○ムタクってスターがいるじゃないですか」
「そうなの?
よく知らないけど」
レイナは日本のドラマなんか観ない。
アニメとラノベと漫画を消化するのに忙しくてとてもじゃないけど無理。
「まあ、そういう大スターがいるんですよ。
その人って色々なドラマとか映画に出ているんですけれど『今度のキ○タクの役は○○だ』という宣伝になります」
「ああ、役者の知名度で客を呼ぶわけね」
それなら判る気がする。
「本物のスターってそういうものなんですけれど、シリーズの登場人物として人気が出てしまった役者さんってきついですよ。
例えば『○ター・トレック』というドラマと映画のシリーズがあるんですけれど、その主人公だった人ってあまりにもそのイメージが強くなりすぎて、他の映画やドラマからはほとんどお呼びがかからなくなってしまったとか」
「どうして?」
「だって例えば刑事物なのにその人が出たらみんな『あ、○ーク船長だ』と思ってしまって。
これって映画俳優としては致命的です」
うわあ。
「お仕事できなくなると?」
「役者としては難しくなります。
でも」
レスリーはニヤッと笑った。
「大長編のシリーズで人気が出ると、そのファンが集まってイベント開いたりするんですよ。
そこにゲストとして呼ばれれば結構な収入が」
「ああ、それ」
「はい。
イベントに行けば『本物』の登場人物が握手してくれたりするんです。
ファンにとってはたまらない機会になります」
アイドルの握手会みたいなものか。
というよりはむしろこっちが正統な「偶像」なのかもしれない。
アニメのキャラが現実に現れて話しかけてくれたら、ファンだったらいくらでも貢げそう。
 




