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異世界の聖女は何をする?  作者: 笛伊豆
第二章 聖女、日本国民になる
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幕間4

 真鍋信子はファミレスを出て今日の面会対象者たちと別れるとふーっとため息をついた。

 意識して緩めていた表情を引き締める。

 緊張した。

 民生委員として色々な事案(ケース)を担当してきたが、今回の件はこれまでにないほど異常だった。

 事案そのものは珍しくもない、不法入国者の状況確認だ。

 入国管理局からの書類によれば、今回の対象者の記録はまったくない。

 それどころか疑わしい関係すら皆無だということだった。

 身元不明の外国人が見つかることは普通の人が考えるより多い。

 日本は島国だから、外国から入国するためには空港や港の管理局で入国審査を受けなければならないことにはなっている。

 だが、島国だけにその国境は360度開かれているとも言える。

 おまけにすぐ近くに大陸があって、その気になればゴムボートでも渡ってこられる。

 よって日本国政府が認識出来ている外国人訪日者は正規の手段で入国したものよりかなり多いと推測される。

 正規な方法以外で国内に入り込んだ者は国は把握出来ない。

 なので、国内には戸籍も住民票もない者がかなりの数潜伏していると思われる。

 そういった者は生活が困窮したり犯罪に巻き込まれたりすると表に出てきてしまう。

 成人なら問題ない。

 しかるべく調査して処理するだけだ。

 だが、未成年の場合は難しい。

 日本に居る事に本人の責任がないことが多いからだ。

 それでも母国が判っていたり親族がいれば強制送還や保護の依頼が可能なのだが、問題は今回のようにまったく係累がないどころかどこから来たのかすら判らない場合だ。

 送還しようにも送り先が判らないのではどうしようもない。

 かといって適当に放り出すわけにもいかない。

 里親を探したり祖国を調査したりといった面倒くさい作業が必要になるが、問題は何といっても当面の扱いだ。

 不法入国者も生活していかなければならない。

 それだけで金も手間もかかる。

 その点、この少女は本人にとっても当局にとっても幸運だと言える。

 当局が把握した時点で既に保護候補者が存在した。

 しかも当面は自分の責任で保護すると申し出たそうだ。

 もちろん、だからといってはいそうですかよろしくと放り投げるわけにはいかない。

 そもそも保護候補者は若い男で対象者が未成年の少女である。

 どうみても人身売買や金銭による嫁取りといった方向にしか思えない。

 普通なら許可出来るはずもないのだが、今回のケースは保護を申し出た者が犯罪歴がない日本国民であり、大手企業の正社員として長年勤務し、問題も起こさず、安定した収入があることが大きかった。

 それでも人格に問題があると困るので、この地区の民生委員である信子に確認の依頼がきたのだが。

 少し話して判った。

 アケチと名乗った保護候補者は対象者に微塵も性的興味を抱いていない。

 それどころか少々大げさなほど気を遣っている。

 少女の方にもアケチに対する思慕の念などまったく感じられなかった。

 ただ、見知らぬ異国で頼りに出来る者、というような感情が伝わってきただけだ。

 日本語も少し出来るというので鎌を掛けてみたが、とんちんかんな返答が返ってきた。

 資料に寄ればアケチは帰宅途中で偶然少女と出会ったということで、それを否定する材料もないのだが、どうもそれだけではない気配がする。

 もっと前からの知り合い、というよりはむしろアケチが少女に仕える立場だったような?

 ひょっとして、少女はどこかの国の王族か何かで密かに亡命してきたとか?

 アケチはその家臣か関係者で一時的に保護を引き受けているとか。

 色々と考えられるが、信子は民生委員としての役目を心得ていた。

 人には色々と事情があり、権限も無いのにそこに踏み込む必要はないし、むしろ藪を突いて何かとんでもない物が飛び出してきたら自分が困る。

 当局から依頼されたのはアケチが保護者として適正かどうかの確認であって、それは問題なくクリアしている。

 ならばそれでいいではないか。

 次回の訪問を約束して二人と別れた信子はそれでも想像を巡らせることを抑えきれなかった。

 独特の気配を纏った少女だった。

 普通の育ち方はしていない。

 それどころか常日頃から周囲に(かしず)かれて生きてきたような雰囲気が動作のひとつひとつから滲み出ていた。

 しかもあの容姿。

 ちょっと観ただけでは髪や肌の色からは考えられないほどむしろ凡庸な印象なのだが、注意を向けた途端に豹変する。

 美しい、というのももちろんだが、それ以前に威厳が凄い。

 そして後光(カリスマ)

 少女以外が目に入らなくなってしまうほどだ。

 それでいて少し目を逸らせばむしろ空虚なほど存在感が薄れる。

 あれはひょっとしたらとんでもない存在なのではないか。

 しかも。

 アケチの方も一見、普通の青年に見えたが底知れない気配を感じた。

 こいつに手を出したらやべぇ、と不良なら思いそうな雰囲気がある。

 もしかしたら凄腕の護衛(ボディガード)

 いやいや、考えるのはよそう。

 下手に絡むと碌な事にはならないことは判っている。

 平穏が一番。

 頬を手の平で叩いてリセットする信子だった。

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