262.アフタヌーンティーを食べてみたい
道で待っているとベンツが寄ってきて停まる。
運転手が降りてきてドアを開けてレイナとレスリーを車に乗せる様子を回り中の人たちが観ていた。
無数のスマホのレンズがこっちを向いているような。
「写真撮られてますね」
「しょうがない」
聖力で画像を消してやろうかと思ったけど多すぎる。
それに怪奇現象だと騒がれるのは拙い。
忘れよう。
ベンツが走り出してからレスリーが言った。
「お腹空きましたね」
「そうね」
結局、カフェではろくに飲み食い出来なかった。
「お食事のご希望はありますか?」
言われて考えてみた。
そうだ。
「アフタヌーンティーを食べてみたい」
「かしこまりました」
レスリーが小声で護衛に相談してからスマホを弄って言った。
「うちの系列のお店があるんですが。
個室を開けられるそうで」
「そこでいい」
多分、一流店なんだろうな。
そこで違和感に気がついた。
今、レスリーは何をした?
平静を装ってシートに背中を預けて目を閉じる。
レスリーは自分で調べる前に護衛に話しかけた。
相談したとも思えるけど、むしろ確認いや承認を求めた?
つまりこの護衛はただの護衛じゃない。
むしろレスリーの上司か。
なるほど。
考えてみれば当たり前だ。
レイナは組織にとって最重要人物だ。
そのレイナに下っ端のレスリーをつけただけでほっておくはずがない。
護衛を装ったかなりの権限者がさりげなく付いていると思うべきね。
ミルガンテ大聖殿の元聖女見習いだから気づけたことだ。
大きな組織は何事を行う場合でもしかるべき権限者もしくはその「目」が現場にいる。
保身のためにそうせざるを得ない。
例えば今、何か不手際があってレイナのご機嫌を損ねたら組織自体の危機だ。
まあいいか。
いざとなったら全て吹き飛ばしてシンを抱えて逃げればいい。
いつものようにミルガンテ流の解決策に至るレイナだった。
ベンツは順調に走って少し郊外にある立派なレストランに着いた。
広い駐車場に車を停めて、レイナとレスリー、そして護衛が店に入る。
運転手は待機のようだ。
レストランの入り口には執事のような人が待ち構えていて、一行はそのまま二階にある個室に送り込まれた。
一般のお客さんからは見えない通路を通ったから、ここはそういうお忍びの客用の部屋なんだろうな。
といっても別に窓がないとかではなく、外からは見えないようになっている広いバルコニーに面している。
「外はまだ寒いので」
「中でいい」
この季節に屋外はきつい。
テーブルには3人分のナプキンが広げられていた。
つまりはそういうことか。
レイナが腰掛けてもレスリーは立ったままで、対面に護衛の人がどっかと座った。
それを見届けてからレスリーが坐る。
力関係が判る、というよりは公にしたわけか。
護衛だった男は「Excuse me.」とレイナに頭を下げてからレスリーに軽く言った。
「You were careless.」
「I'm sorry.」
レイナに判るように易しい英語を使っている。
説明してくれるつもりらしい。
バレたことに気づいたんだろうな。




