261.あのドールハウスは良かった
「お城って石垣や天守閣があるものだと」
「日本のお城はそうですね。
欧州のお城は石造で尖塔ですよ」
「お堀とかないのね」
「発想が違うんでしょうね。
近くまで攻め寄せられたらお堀なんかでは食い止められませんから」
なるほど。
そう考えてみてみるとウィンザー城はまさしく戦闘用だった。
無骨な石壁が続いている。
住みにくそう。
「改装してあるので中はそれほどでもないですよ」
ということでお城の中に。
たくさんの部屋があったし礼拝堂などもあった。
「凄いね」
「こういうお城って内部に一通りの設備があるんですよ。
この中だけで生活が完結できると」
礼拝堂は不可欠なのだそうだ。
聖力がないと神様に頼るのか。
「あのドールハウスは良かった」
「クイーン・メアリーズ・ドールハウスは私も初めて観ましたけれど、あれって本物の建築家が設計して専門家が作ったらしいですよ。
電気や水道の配管も通っていて。
実際の家よりお金がかかっているとか」
凄いなあ。
王様が王妃様のために作らせたらしいけど、よっぽど愛していたんだろうな。
これこそ贅沢というものなのかも。
よく判らないけど。
ドールハウスどころか人形にすらまったく興味がないレイナだった。
やっぱり私、情緒的にひどい欠陥があるのかもしれない。
アニメに出てくるラブコメとか恋愛とか意味不明だったし。
そんなの生き残りに必要なくない?
これまでの人生でまったく遭遇しなかったからなあ。
政略結婚とかならかろうじて理解出来るんだけど。
色々見て回ったらレスリーがフラフラになっていた。
「すみません。
ちょっと無理です」
「ごめん。
どこかで休もう」
聖力で体力を回復出来るレイナとは違う。
ちなみに何といったかの護衛は黙々と従うだけだった。
疲れた様子も見せない。
プロだな。
お城から出てしばらく行くと観光客向けらしいカフェがあったので入る。
広かったが混んでいた。
「疲れた観光客がここに吸い込まれるみたいです」
「いい商売ね」
人目があるのでレイナはフードを被ったままだったが、しばらくするとやはり周囲の視線が集中してきた。
あちこちから「Foreign Princess」とか「Young lady」みたいな呟きが聞こえる。
「拙いですね」
「そうね」
「そろそろ行きますか」
コソコソ話していると「There are also guards and maids.」という声が聞こえた。
やはりレスリーは侍女扱いか。
レスリーが「私ってメイドに見えるみたいです!」と喜んでいる。
いや、この場合のmaidsって侍女のことだよ?
なぜかそっち方面の英語にだけ詳しくなってしまったレイナだった。
もちろんレスリーは判った上で曲解しているんだろうな。
注目を浴びながら平然と席を立ち、レスリーが料金を払ってカフェを出る。
護衛が「Excuse me. I'll call a car.」と言ってスマホで何か話してから歩き出した。
少し歩くと広い道に出た。
その向こうは駐車場だった。
「こんなに近くにもあるんじゃ」
「ロングウォークも観光名所ですから」
知ってて歩かせたのか!
確かにあんなに長い道を歩かないと辿り着けない観光地って流行りそうにないけど。
この駐車場も観光バスが近くに停まれるようにするためのものなんだろう。




